9:坑道をゆく
魔鉱石の洞窟の地下は職人たちの居住区であるディグ村と、あちこちに枝分かれした坑道でできている。
魔物が現れたという報告を聞いて単独で飛び出したエイミを追って坑道をしばらく行くと、地面に点々と転がる魔物の亡骸が今まさに消滅していくところだった。
きっと彼女は近くにいる。ほどなくして硬質な物がぶつかり合うような音が聴こえ、フォンドたちは駆け出した。
「邪魔をしないで!」
苛立ちを顕にしたエイミの声。坑道内は槍を振り回せるだけの広さがあるが、それでも自在に動き回るには足りない状況で。
執拗に攻撃してくる虫型やスライム状の魔物にまとわりつかれ、彼女は足止めされていた。
「エイミ、下がって!」
「モーアンさん!?」
「聖なる光よ、裁きに集え!」
咄嗟に、弾かれたようにエイミが飛び退くと、獲物を失った魔物たちが留まるそこへ魔法の光が収束し、弾け、まとめて焼く。
「で、できた……光の攻撃魔法……」
「モーアンさんすげえ! オレも負けてられねえな!」
フォンドはそう言うと別の魔物の懐に素早く潜り込み、強烈な拳打で吹き飛ばして壁に叩きつける。
エイミを取り囲む魔物はこれで全て倒され、塵となって消えていった。
『大丈夫、エイミ?』
「あ……」
やってしまった。頭に昇っていた血がすうっと降りると、エイミは青ざめる。
故郷を奪った魔族が関わっているかもしれないと聞いて居ても立っても居られず、勝手に動いて仲間に迷惑をかけてしまった。
「ご、ごめんなさい……わたし、」
「僕もノクスが現れたと聞いたら、飛び出していたかもしれないね」
「オレだってそうかもな。親父やジャーマが出てきたら、こうなってたのはオレかもしれねえ。だからさ、エイミ」
一緒に行こう。
フォンドは笑って、右手を差し出した。
「さっき村の人たちに話を聞いたんだけど、坑道の奥に取り残された人がいるみたいなんだ。だから、どのみち急いだ方がいい」
「そういうこった。一緒ならもっと早く安全に行けるだろ?」
『ていうか、私を置いていかないでよね!』
坑道はある程度舗装されているものの決して足場が良くはない。情報を聞いてからここまで駆けつけるのにどれだけ走っただろうか。
フォンドはけろりとしているが、モーアンの息があがっていた。
そんな彼らはエイミを咎めるでもなく、ただ微笑んでそう言うだけで……
じわ、と大きく澄んだ目の端に涙が滲む。
「ごめんなさ……」
「謝るのはもういいって」
「……はい。ありがとう、ございます……!」
「うん。それじゃあ行こう……っと、その前に傷を治さないとね」
貴方たちと一緒で良かった。
エイミは深々と頭を下げ、その輪の中に入る。
『もう、大丈夫みたいね』
ミューがひっそりと呟いたのは、エイミが仲間と合流したからか、モーアンが回復魔法で彼女の傷を癒してくれたからだろうか、それとも……
その声は、誰に届くことなく坑道に響く足音に紛れていった。
魔物が現れたという報告を聞いて単独で飛び出したエイミを追って坑道をしばらく行くと、地面に点々と転がる魔物の亡骸が今まさに消滅していくところだった。
きっと彼女は近くにいる。ほどなくして硬質な物がぶつかり合うような音が聴こえ、フォンドたちは駆け出した。
「邪魔をしないで!」
苛立ちを顕にしたエイミの声。坑道内は槍を振り回せるだけの広さがあるが、それでも自在に動き回るには足りない状況で。
執拗に攻撃してくる虫型やスライム状の魔物にまとわりつかれ、彼女は足止めされていた。
「エイミ、下がって!」
「モーアンさん!?」
「聖なる光よ、裁きに集え!」
咄嗟に、弾かれたようにエイミが飛び退くと、獲物を失った魔物たちが留まるそこへ魔法の光が収束し、弾け、まとめて焼く。
「で、できた……光の攻撃魔法……」
「モーアンさんすげえ! オレも負けてられねえな!」
フォンドはそう言うと別の魔物の懐に素早く潜り込み、強烈な拳打で吹き飛ばして壁に叩きつける。
エイミを取り囲む魔物はこれで全て倒され、塵となって消えていった。
『大丈夫、エイミ?』
「あ……」
やってしまった。頭に昇っていた血がすうっと降りると、エイミは青ざめる。
故郷を奪った魔族が関わっているかもしれないと聞いて居ても立っても居られず、勝手に動いて仲間に迷惑をかけてしまった。
「ご、ごめんなさい……わたし、」
「僕もノクスが現れたと聞いたら、飛び出していたかもしれないね」
「オレだってそうかもな。親父やジャーマが出てきたら、こうなってたのはオレかもしれねえ。だからさ、エイミ」
一緒に行こう。
フォンドは笑って、右手を差し出した。
「さっき村の人たちに話を聞いたんだけど、坑道の奥に取り残された人がいるみたいなんだ。だから、どのみち急いだ方がいい」
「そういうこった。一緒ならもっと早く安全に行けるだろ?」
『ていうか、私を置いていかないでよね!』
坑道はある程度舗装されているものの決して足場が良くはない。情報を聞いてからここまで駆けつけるのにどれだけ走っただろうか。
フォンドはけろりとしているが、モーアンの息があがっていた。
そんな彼らはエイミを咎めるでもなく、ただ微笑んでそう言うだけで……
じわ、と大きく澄んだ目の端に涙が滲む。
「ごめんなさ……」
「謝るのはもういいって」
「……はい。ありがとう、ございます……!」
「うん。それじゃあ行こう……っと、その前に傷を治さないとね」
貴方たちと一緒で良かった。
エイミは深々と頭を下げ、その輪の中に入る。
『もう、大丈夫みたいね』
ミューがひっそりと呟いたのは、エイミが仲間と合流したからか、モーアンが回復魔法で彼女の傷を癒してくれたからだろうか、それとも……
その声は、誰に届くことなく坑道に響く足音に紛れていった。