9:坑道をゆく
ルクシアルから南下して船で南大陸へ。大地の精霊がいるという魔鉱石の洞窟を訪れたエイミたちは、地下で暮らす職人たちの集落で住民にぐるりと囲まれ、熱い歓迎を受けた。
兜と作業用エプロンを身に着けた、筋肉質で背の低いもっさりオシャレ髭がトレードマークの集団は見渡すとなかなかの絵面である。
「地上からのお客さんなんてひっさしぶりだド!」
「おっ、見るド見るド! この武器オラが作ったんだド!」
繊細で華麗、なおかつ機能性を損ねないデザインの槍を無骨で岩のような手が指差す。
エイミの背にあるそれは魔法都市マギカルーンで買ったもので、ここでも同じものが販売されているらしい。
「冒険者の初心者向け装備だド。軽くて扱いやすいド?」
「はい、とても。初心者向けじゃないものもあるんですか?」
エイミがそう尋ねると武器職人は眉間にシワを寄せ、彼女を見上げた。
「んー……お嬢ちゃんたちにはまだ早ぇド。最初から強すぎる力を持つと、振り回されちまうド」
「んだんだ。力を持つには体も心も、いっぱい成長する必要があるド!」
「体も、心も……」
朗らかで呑気なようで、エイミの未熟さを見透かした彼らの言葉がずしりと胸に響き、少女の表情が引き締まる。
と、そんな彼らの間にフォンドが割って入った。
「そろそろいいか? オレたち、ガネット様ってのを探してんだよ」
「ガネット様に用があるんだド? ガンコだから会ってくれるかは……んん、そういや今日は姿見ねえな?」
誰か、見たかぁ?
いんや、見ねえド。
顔を見合わせ、左右に首を振りながら口々にそう言う住民たち。
『ガネット様ってそんなに身近なの?』
「オラたちの作品を見るのが大好きだからなぁ」
『精霊ってもっと厳かなイメージあったんだケド……みんなこんな感じなのかしら』
今この場には顔を出していない白い火の玉が思い出され、ミューの口から呆れまじりの溜め息がこぼれる。
その時だった。
「た、た、大変だドーーーー!」
村の外から聴こえてきた叫び声が、全員の動きを止める。
どたどたと騒がしく駆け込んできた、やはり髭の形が違う一人は真っ青で目を見開いていて。
「なんだ、どうしたド?」
「お、お、奥から、見たことねぇ魔物がいっぱい……!」
瞬間、フォンドとエイミが互いに見合わせる。
この辺りにも魔物自体は出るだろうが、それが見たことない異様な数となれば、二人には心当たりがあった。
「魔界の連中か……あっ、エイミ!?」
『ま、待って!』
「僕らも一緒に……!」
モーアンのその言葉が届くより早く、エイミは村を飛び出してしまう。
行き先はおそらく、村入口の手前にあった分かれ道のもう片方だろう。
「エイミ……」
一瞬だけ垣間見えたエイミの表情に、フォンドは息を呑む。
心優しく穏やかな少女の蒼穹の瞳には、燃え盛るような強い憎しみが宿っていた。
兜と作業用エプロンを身に着けた、筋肉質で背の低いもっさりオシャレ髭がトレードマークの集団は見渡すとなかなかの絵面である。
「地上からのお客さんなんてひっさしぶりだド!」
「おっ、見るド見るド! この武器オラが作ったんだド!」
繊細で華麗、なおかつ機能性を損ねないデザインの槍を無骨で岩のような手が指差す。
エイミの背にあるそれは魔法都市マギカルーンで買ったもので、ここでも同じものが販売されているらしい。
「冒険者の初心者向け装備だド。軽くて扱いやすいド?」
「はい、とても。初心者向けじゃないものもあるんですか?」
エイミがそう尋ねると武器職人は眉間にシワを寄せ、彼女を見上げた。
「んー……お嬢ちゃんたちにはまだ早ぇド。最初から強すぎる力を持つと、振り回されちまうド」
「んだんだ。力を持つには体も心も、いっぱい成長する必要があるド!」
「体も、心も……」
朗らかで呑気なようで、エイミの未熟さを見透かした彼らの言葉がずしりと胸に響き、少女の表情が引き締まる。
と、そんな彼らの間にフォンドが割って入った。
「そろそろいいか? オレたち、ガネット様ってのを探してんだよ」
「ガネット様に用があるんだド? ガンコだから会ってくれるかは……んん、そういや今日は姿見ねえな?」
誰か、見たかぁ?
いんや、見ねえド。
顔を見合わせ、左右に首を振りながら口々にそう言う住民たち。
『ガネット様ってそんなに身近なの?』
「オラたちの作品を見るのが大好きだからなぁ」
『精霊ってもっと厳かなイメージあったんだケド……みんなこんな感じなのかしら』
今この場には顔を出していない白い火の玉が思い出され、ミューの口から呆れまじりの溜め息がこぼれる。
その時だった。
「た、た、大変だドーーーー!」
村の外から聴こえてきた叫び声が、全員の動きを止める。
どたどたと騒がしく駆け込んできた、やはり髭の形が違う一人は真っ青で目を見開いていて。
「なんだ、どうしたド?」
「お、お、奥から、見たことねぇ魔物がいっぱい……!」
瞬間、フォンドとエイミが互いに見合わせる。
この辺りにも魔物自体は出るだろうが、それが見たことない異様な数となれば、二人には心当たりがあった。
「魔界の連中か……あっ、エイミ!?」
『ま、待って!』
「僕らも一緒に……!」
モーアンのその言葉が届くより早く、エイミは村を飛び出してしまう。
行き先はおそらく、村入口の手前にあった分かれ道のもう片方だろう。
「エイミ……」
一瞬だけ垣間見えたエイミの表情に、フォンドは息を呑む。
心優しく穏やかな少女の蒼穹の瞳には、燃え盛るような強い憎しみが宿っていた。