はじまりの章:竜国の姫君
竜騎士――空を駆ける竜の背に乗り、時には一体となって、また時には一対となって。戦場を縦横無尽に飛ぶ、機動力の高い戦士のことを指す。
ドラゴニカに生まれた女は生まれたばかりの頃にパートナーの竜から血を分け与えられて半人半竜となり、竜に乗って飛び回れるだけの強靭な肉体と力を得るという。
美貌の女王パメラも愛らしいエルミナも、その見た目からは想像もつかない身体能力の持ち主なのだ。
「近頃は魔物も増えたわね……」
和やかなティータイムも終わり、自室に帰ってきて。
窓の外で荒れる吹雪を眺めながら、エルミナはそう呟き、テーブルの上に突っ伏した膨れっ面のミューを振り返る。
「姉様がわたしを鍛えるのも、きっとそのせいよ。わかるでしょ、ミュー?」
『けど、そんな傷だらけになって……』
ぐ、と堪えるように俯くミュー。ドラゴニカの雪のように白く滑らかなエルミナの肌には、痛々しい生傷が絶えない。
「大丈夫よミュー。わたし、楽しいの」
エルミナは相棒を安心させるように微笑みかける。が、直後に大きな目をキラキラさせ、両手を顔の前で合わせて組み、
「今日は姉様、手合わせの中で新しい技を見せてくれたのよ! わたしも少しは成長できてるみたいな気がして嬉しくて嬉しくて……」
『なんでニッコニコでそういうコト言うかなあこの脳筋は!?』
見た目だけなら本当に可憐という言葉がよく似合う、一輪の小さな白い花のようなエルミナ。
そんな彼女は――ドラゴニカの女性は大小の差はあれどこういう気質を持っている者が多いのだが――己の強さを磨くことに一生懸命で、そして活き活きとしている。
「何にしたって、体を鍛えて強くなることは必要よ。ドラゴニカやグリングランの警備隊になるのももちろん、配達のお仕事だって大変なんだから」
空を自由に飛ぶ竜騎士は、あらゆる所に活躍の場がある。
隣国のグリングランとは共生関係にあり、あちらからは豊富な食糧を提供してもらい、こちらからは竜騎士を警備隊として派遣しているのだ。
そして手紙や物資を運んで世界中を飛び回る配達員……どの仕事でも、魔物と遭遇することは多い。
「強くなることは、みんなを助けられる場面が増えるということよ。だからわたしは、もっと強くなりたいの」
『エルミナ……』
「心配してくれてありがとう、ミュー」
生まれた頃からずっと一緒に育ってきたふたりは、お互いのことをよくわかっている。
ワガママでツンツンした物言いの裏に隠れたミューの優しさも、エルミナにはお見通しだった。
(……わかってる。わかってるわ。ホントは、強くならなきゃいけないのは……)
パートナーが傷つくのが嫌だというのなら、自分がその力になればいい。
ミューは大きな目をそっと伏せ、俯く。
(そんな時が、ずっと来なければいいのにね)
いつまでもエルミナと一緒に平和なドラゴニカで楽しく笑って過ごしたい。
そんなミューの願いとは裏腹に、竜の肌はほんの僅か、ざわざわとした妙な悪寒を感じ取っていた。
ドラゴニカに生まれた女は生まれたばかりの頃にパートナーの竜から血を分け与えられて半人半竜となり、竜に乗って飛び回れるだけの強靭な肉体と力を得るという。
美貌の女王パメラも愛らしいエルミナも、その見た目からは想像もつかない身体能力の持ち主なのだ。
「近頃は魔物も増えたわね……」
和やかなティータイムも終わり、自室に帰ってきて。
窓の外で荒れる吹雪を眺めながら、エルミナはそう呟き、テーブルの上に突っ伏した膨れっ面のミューを振り返る。
「姉様がわたしを鍛えるのも、きっとそのせいよ。わかるでしょ、ミュー?」
『けど、そんな傷だらけになって……』
ぐ、と堪えるように俯くミュー。ドラゴニカの雪のように白く滑らかなエルミナの肌には、痛々しい生傷が絶えない。
「大丈夫よミュー。わたし、楽しいの」
エルミナは相棒を安心させるように微笑みかける。が、直後に大きな目をキラキラさせ、両手を顔の前で合わせて組み、
「今日は姉様、手合わせの中で新しい技を見せてくれたのよ! わたしも少しは成長できてるみたいな気がして嬉しくて嬉しくて……」
『なんでニッコニコでそういうコト言うかなあこの脳筋は!?』
見た目だけなら本当に可憐という言葉がよく似合う、一輪の小さな白い花のようなエルミナ。
そんな彼女は――ドラゴニカの女性は大小の差はあれどこういう気質を持っている者が多いのだが――己の強さを磨くことに一生懸命で、そして活き活きとしている。
「何にしたって、体を鍛えて強くなることは必要よ。ドラゴニカやグリングランの警備隊になるのももちろん、配達のお仕事だって大変なんだから」
空を自由に飛ぶ竜騎士は、あらゆる所に活躍の場がある。
隣国のグリングランとは共生関係にあり、あちらからは豊富な食糧を提供してもらい、こちらからは竜騎士を警備隊として派遣しているのだ。
そして手紙や物資を運んで世界中を飛び回る配達員……どの仕事でも、魔物と遭遇することは多い。
「強くなることは、みんなを助けられる場面が増えるということよ。だからわたしは、もっと強くなりたいの」
『エルミナ……』
「心配してくれてありがとう、ミュー」
生まれた頃からずっと一緒に育ってきたふたりは、お互いのことをよくわかっている。
ワガママでツンツンした物言いの裏に隠れたミューの優しさも、エルミナにはお見通しだった。
(……わかってる。わかってるわ。ホントは、強くならなきゃいけないのは……)
パートナーが傷つくのが嫌だというのなら、自分がその力になればいい。
ミューは大きな目をそっと伏せ、俯く。
(そんな時が、ずっと来なければいいのにね)
いつまでもエルミナと一緒に平和なドラゴニカで楽しく笑って過ごしたい。
そんなミューの願いとは裏腹に、竜の肌はほんの僅か、ざわざわとした妙な悪寒を感じ取っていた。