8:いざ、南大陸へ
トン、テン、カン、テン。魔鉱石の洞窟に入った途端に聴こえてきた音は軽やかで硬質で、どこかリズミカルだ。
あちこちで岩壁を叩き、魔法石のもととなる鉱石を取り出しているのだ。
「ここが魔鉱石の洞窟……」
「この洞窟は少し変わっていてね。内部に職人たちの集落があるんだよ」
「えっ、洞窟の中に!?」
早速書庫で得た知識だろうか。モーアンが仲間たちに話して聞かせる。
洞窟の中なんて魔物もうろうろしているのでは……そんな懸念がよぎるが、どうやら女神像があるからちゃんと結界に守られているらしい。
『ここにはワシの飲み友のガネちゃんがおるはずじゃ』
「ガネちゃん?」
「大地の精霊、ガネット様だよねアマ爺? ちゃんと本に書いてあったんだから」
もはや当然のように現れ、言いたいことだけ言って消えるディアマントにどうせ聴こえているだろうと返すモーアン。
事実、契約者さえいれば精霊はいつでもどこでも現れることができるようだ。
「とりあえずその職人の集落ってとこに行ってみないか? 精霊について話が聞けるかもしれねえ」
『そこにいてくれたらラクなんだけどねぇ』
壁に等間隔で設置された照明は、強すぎず淡い光で薄暗い通路を照らしている。
炎ではなく石自体が発光しているそれも、魔法道具のひとつだろう。
「不思議な場所ですね。なんだか、幻想的……」
「マギカルーンで見たものもそうだけど、キレーだよな。職人ってどんな連中なんだろうな?」
広い階層にひとつだけある階段を降りると、左右に枝分かれした狭い通路に看板――左を指す矢印と“ディグ村”とだけ書かれていて、どうやらそれが職人の集落らしかった。
そして右側の通路の奥からは、入口でも聴こえていた掘る音が更に大きく響いている。
「おっ?」
左を向いた瞬間、小柄な人影と目が合った。
背丈はエイミより頭ひとつ分くらい小さく、けれどもがっしりずんぐりむっくりした体格。胸のあたりまで伸ばした立派な髭は三叉に分かれてそれぞれを三つ編みにしており、使い込まれたエプロンを身に着け、頭を守る頑丈そうな兜を被っている。
「もしかして……」
「おっ、お客さんだドー!」
洞窟じゅうが震えるかと思うような、大きく低い声。
思わず怯んだエイミの手を、男の大きな手が掴み、引っ張る。
「へっ? きゃあ!」
「エイミ!」
ものすごい勢いで連れ去られた彼女を追ってフォンドたちが駆けつけると、そこには……
「へへっ、ようこそデグむらへー!」
「細っこいお嬢さんだなぁ。白くてキレーだぁ」
「お客さん久しぶりだド! うちの作品見てくド!」
「あっ、あっ、あの……」
似たようで少しずつ違う兜の形と髭のオシャレ。先程の男と同じような背恰好の集団に囲まれ、エイミが困惑していた。
「これが……職人の村……」
『なんか、思ってたのとだいぶ違うわね……』
地下に広がる大空洞にできた、職人の集落デグ……ではなく、ディグ村。
そこは陽気で無邪気な職人たちが暮らす、独自の小さな村だった。
あちこちで岩壁を叩き、魔法石のもととなる鉱石を取り出しているのだ。
「ここが魔鉱石の洞窟……」
「この洞窟は少し変わっていてね。内部に職人たちの集落があるんだよ」
「えっ、洞窟の中に!?」
早速書庫で得た知識だろうか。モーアンが仲間たちに話して聞かせる。
洞窟の中なんて魔物もうろうろしているのでは……そんな懸念がよぎるが、どうやら女神像があるからちゃんと結界に守られているらしい。
『ここにはワシの飲み友のガネちゃんがおるはずじゃ』
「ガネちゃん?」
「大地の精霊、ガネット様だよねアマ爺? ちゃんと本に書いてあったんだから」
もはや当然のように現れ、言いたいことだけ言って消えるディアマントにどうせ聴こえているだろうと返すモーアン。
事実、契約者さえいれば精霊はいつでもどこでも現れることができるようだ。
「とりあえずその職人の集落ってとこに行ってみないか? 精霊について話が聞けるかもしれねえ」
『そこにいてくれたらラクなんだけどねぇ』
壁に等間隔で設置された照明は、強すぎず淡い光で薄暗い通路を照らしている。
炎ではなく石自体が発光しているそれも、魔法道具のひとつだろう。
「不思議な場所ですね。なんだか、幻想的……」
「マギカルーンで見たものもそうだけど、キレーだよな。職人ってどんな連中なんだろうな?」
広い階層にひとつだけある階段を降りると、左右に枝分かれした狭い通路に看板――左を指す矢印と“ディグ村”とだけ書かれていて、どうやらそれが職人の集落らしかった。
そして右側の通路の奥からは、入口でも聴こえていた掘る音が更に大きく響いている。
「おっ?」
左を向いた瞬間、小柄な人影と目が合った。
背丈はエイミより頭ひとつ分くらい小さく、けれどもがっしりずんぐりむっくりした体格。胸のあたりまで伸ばした立派な髭は三叉に分かれてそれぞれを三つ編みにしており、使い込まれたエプロンを身に着け、頭を守る頑丈そうな兜を被っている。
「もしかして……」
「おっ、お客さんだドー!」
洞窟じゅうが震えるかと思うような、大きく低い声。
思わず怯んだエイミの手を、男の大きな手が掴み、引っ張る。
「へっ? きゃあ!」
「エイミ!」
ものすごい勢いで連れ去られた彼女を追ってフォンドたちが駆けつけると、そこには……
「へへっ、ようこそデグむらへー!」
「細っこいお嬢さんだなぁ。白くてキレーだぁ」
「お客さん久しぶりだド! うちの作品見てくド!」
「あっ、あっ、あの……」
似たようで少しずつ違う兜の形と髭のオシャレ。先程の男と同じような背恰好の集団に囲まれ、エイミが困惑していた。
「これが……職人の村……」
『なんか、思ってたのとだいぶ違うわね……』
地下に広がる大空洞にできた、職人の集落デグ……ではなく、ディグ村。
そこは陽気で無邪気な職人たちが暮らす、独自の小さな村だった。