8:いざ、南大陸へ

 気がかりだった港町の結界の修復を済ませると、エイミは仲間と合流し、船に乗り込んだ。
 次の目的地である南大陸は温暖な気候と豊かな大地。ディアマントが言っていた精霊の住処である“魔鉱石の洞窟”では、人々の暮らしを支える魔法石が採れるんだよとモーアンが船上で教えてくれた。
 彼の話によると魔法都市マギカルーンでは魔法使いたちが石に術式を施し、それを加工する職人たちが暮らす村も近くにあるという。

「僕たちが普段使っている便利な魔法道具はこの南大陸から生まれているんだよ」
「へぇー」

 この世界、レレニティアの人々の生活を支える魔法道具。
 足りない力を補助したり道具の効力を高めるもの、人や物を浮かすもの、記憶させた動きを繰り返すものなど。
 形も用途もさまざまなそれらは、世界各地でもはや見かけない場所がないほどだ。

「ドラゴニカはとても寒いので、温度調節の魔法道具が必需品なんです」
『私たちにとって一番身近なアイテムかもね』

 港を出て街道を南下し、壁に囲まれた門を潜ると、そこは魔法都市マギカルーン。
 特徴的なのは市場に並ぶさまざまな姿かたちをした魔法道具と、奥にある巨大な建造物。
 城のような灰色の建物を見て、真っ先に歓声をあげたのは最年長のモーアンだった。

「魔法士協会かぁ……ここの書庫はすごいんだって聞いて、一度来てみたかったんだよねぇ」

 両手を前で組み、目をきらきらと輝かせ、声音は興奮で上擦ってまるで夢見る少年か、或いは憧れの都会に出た田舎者か。
 あまりの変わりぶりに呆気にとられるミューとフォンド。エイミが首を傾げ、モーアンに尋ねる。

「魔法士協会、ですか?」
「マギカルーンの魔法士……ただ魔法を扱えるだけじゃなくて、魔法道具を作る技術を持った人のことなんだけど、同時に研究者も多くてね、だからか魔法に関する書物が世界中から集まるんだよ。それだけじゃない。一見関係なさそうな本だってどこで研究と繋がるかわからないから、魔法理論や歴史から料理本に絵本まで、ここの書庫には本当にいろんな本があって……!」
「えっ、あ……モ、モーアンさん……?」

 早口で一気にまくしたて、ぐいぐいと迫るモーアンに思わず二、三歩後ずさりをする困惑顔のエイミ。その間に慌ててミューが割って入る。

『ちょっ、落ち着きなさい! アンタがここに憧れてるのはよくわかったから!』
「あ、ああ、ごめんよ」

 ようやく正気に戻ったモーアンは咳払いをひとつして、

「とにかく……ここの書庫は一般公開されてる範囲なら協会の人間じゃなくても閲覧できるそうだから、何か手がかりが得られるかもしれないよ。だから調べ物は僕に……僕に任せてくれないかな? 自由時間にやっとくから、ねっ?」
「言われなくてもそーするよ……」
「よ、よろしくお願いします」

 若干引き気味の仲間たちに「よしっ」と嬉しそうな小声で拳を握る最年長。
 魔鉱石の洞窟に向かう前の準備として訪れたマギカルーンで、彼は真っ先に書庫へと小走りするのだった。
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