8:いざ、南大陸へ

 光の精霊を仲間に加えた一行の次なる目的地は南大陸。
 港町リプルスーズで定期船を待つ間、エイミたちは一度解散してそれぞれ自由な時間を過ごすことにした。

『帰ってきたってカンジねぇー』
「そうね。あの夜のことがずいぶん前に思えるわ」

 潮風を全身に感じながら小さな体を震わせ、のびをするミュー。
 一度目の出発から数日を経てのリプルスーズは、魔物襲撃の爪痕を僅かに残しながら元に戻りつつある。
 警備に雇われたのだろうか、以前は見かけなかった傭兵らしき者たちもあちらこちらで見かけた。

「だいぶ片付けられてはいるけれど、やっぱり完全にとはいかないわね……」

 はぁ、と溜め息をひとつ吐き、町の中央へ顔を向ける。
 エイミの視線の先には、静かに佇む古びた女神像の――町の守り神の姿があった。

『もしかして、ずっと気にしてたの?』
「いくら魔物のボスを倒したといっても、いつまでも安全が保証されたわけではないでしょう? 結界が不完全なら、また襲われるかもしれない」

 運良くエイミたちのように戦える旅人がいたから大きな被害は出なかったが、いつまた襲われるかわからない状況では人々の心は休まらないだろう。
 女神レレニティアを象ったという像の前に立ち、じっと見上げる。

「どうにかして結界を修復できないかしら……?」

 胸元に置いた手にぐっと力が入る。切なげに零れた少女の呟きに対する答えは、

『できるぞー』

 という、妙に軽い返事と共に現れた光の精霊がもたらした。

「ディアマントさん!?」
『アンタ、こんな人の多いところで出てきて大丈夫なの?』

 驚くエイミと、もはや敬意も何もあったものではないミューの顔を交互に見、ディアマントは片目を瞑る。

『安心せい。ワシの姿も声も、今はおぬしらにしかわからんよ』
『そういうものなの……?』
『騒ぎにならぬよう今からおぬしらの姿も一時的に隠すぞ。光魔法の応用じゃ』

 ぴかっと一瞬だけ光を放つと、町の人々の視界からエイミたちの姿が消えた……といっても、そのことに気づいた者もいなければ特にリアクションもないので彼女たちの実感も薄い。

『……まぁ、結界が急に直ったら大騒ぎか。その現場にいたら大変なことになるかもね』
「それで、どうすれば?」

 精霊は直接力を行使することはできないというのはまさにこの精霊から聞いた話だった。
 彼が“できない”と言うのなら、この場合何か“する”のは自分だろう。エイミはそう尋ねた。

『像に手をあて、力を送り込むんじゃ』
「それだけで結界が復活するんですか?」
『今のおぬしらなら女神様の力のカケラである“聖なる種子”を扱えるじゃろうからな』

 ディアマントは答えるついでに、説明を続ける。

『種子はワシとの契約を経て成長しておる。今はちょこっと芽が出たような状態じゃな。種子が育てば、それだけ女神様の力も戻るぞ』
「それなら、なるべく早く他の精霊さんたちにも会わないとですね」

 こくりと頷きを返すと、光精霊はエイミに向き直った。

『さて、力の使い方じゃが……まずは己の中にある種子を感じるんじゃ。それから、女神像に手をあてて……』

 言われるまま、エイミの華奢な手が白い女神像にそっと触れる。
 彼女の胸から淡く優しい光が溢れ、その手を通して像の中へと流し込まれた。
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