7:精霊との契約

「ところで、これからどこに行けばいいんだ?」

 いろいろな出来事があり過ぎて、既に懐かしくも感じる星見の丘の帰路。行きと同様迷わないようミューがしっかり空から確認しながら、港町リプルスーズへと向かう街道を目指して進んでいく。
 海に出る必要があるのだからまずは港を目指せばいい。しかし、フォンドは精霊の居場所についてそれ以上は何も知らなかった。

「ドラゴニカの近くにも水の精霊さんがいるという話ですが……恐らく、今は船も出ていないのではないでしょうか」
『今頃、城が魔族に奪われたことも知れ渡っているでしょうしね。グリングラン側から陸路で行くこともできるだろうけど、危険には違いないわ』

 身体能力が高く機動力とコンビネーションが強力な竜騎士を相手に不意討ちとはいえあっさりと城を乗っ取ってしまった魔族を相手にするのは、さすがに今のエイミたちでは時期尚早だろう。

「もっと力をつけないと……」
『そーゆーことじゃったらワシの出番じゃな!』
『わっ、また出た』

 一度は引っ込んだディアマントが、エイミの呟きに反応して再び飛び出してきた。
 呆れ顔のミューをよそに、白い焔を揺らめかせながらディアマントは話し始める。

『ワシと契約したことで、おぬしらの内に眠る光の力が引き出されておる。どんな形で扱えるようになるかはそれぞれじゃが、そうじゃのう……そこの神官はもともと回復魔法を扱えるようじゃな』
「ああ、そうだよ。けど攻撃魔法はまだ……」
『種は芽吹いた。そう遠くないうちに扱えるようになると思うぞ』

 わぁ、とほんの少し高揚が滲み出た声音のモーアン。だがフォンドは冷めた反応で、

「そりゃ、魔法を使えるモーアンはいいけど……オレには関係なさそうだな」
『なーにを言うかっ!』
「うおっ!?」

 と、それを聞き捨てならないとばかりに眼前に迫るディアマントのせいで、フォンドの視界が真っ白になる。

『どんな形で扱えるようになるかはそれぞれじゃと言っておろう? それはなにも魔法に限らんし、おぬしだって魔法が扱えないままとは限らん』
「えっ、そうなのか?」
『全ては、おぬしがどんな力を欲するか、じゃよ』

 その言葉はフォンドのみならず、全員の胸に強く響く。

「どんな力を欲するか……」

 敵を穿つ矛、仲間を守る盾。癒しの力に助ける力。
 自分に現れる力はどんなものかわからない。それでも、確かに一歩、前へと進んでいるのを感じる。

(精霊さんたちと契約することで女神様の力を補えるだけじゃない。わたし自身も強くなれる。それなら……!)

 それならいつかこの手が、この槍が、ドラゴニカを奪った魔族に届くかもしれない。

「行きましょう、精霊さんたちに会いに!」
『その意気じゃよお嬢ちゃん。まずは南大陸にある“魔鉱石の洞窟”に行くと良い。ここから比較的近い、精霊の居場所じゃ』
「南大陸か……船の行き先、決まったな!」

 リプルスーズは“世界に繋がる港”と呼ばれるほどで、各方面への定期船が出ている。
 その中で、移動距離が短いのが南大陸行きの船だ。

「港からまずは魔法都市マギカルーンに立ち寄ったほうが良さそうだね」
「魔法都市かぁ……どんな町なんだろうな」

 世界の命運がかかった旅。けれどもそんな時だからこそ、新天地への期待を膨らませたフォンドの声音は明るい。

『若者はきらきらと眩しいのぅ』
『光の精霊が何言ってんだか』

 彼らの足は、港町リプルスーズへ。
 その足取りは重たくはなく、けれどもしっかりと踏み締めるように。
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