7:精霊との契約
洞窟を抜けた一行は陽の光に出迎えられ、眩しさに目を細めた。
「今回は何事もなく抜けられたなー」
目の上に手を翳して日差しを遮りながらぱちぱちとまばたきをするフォンド。明るいところに目を慣らしたところでその手を下ろした。
僅かに吹く外の風が心地よい。湿った空気や薄暗さ、岩壁の窮屈さから解放され、清々しそうに伸びをする。
「そういえば、あの時の揺れは何だったのでしょう?」
「そうそう。あれだけ揺れたのにルクシアルでは騒いでる様子がなくて、尋ねてみたら「そんなの知らない」って言われたんだよ」
エイミたちとモーアンが出会う直前に起きた地震は通路の一部を崩落させるほどのものだった。
それなのに、すぐ近くの町で全く話題になっていなかったというのは違和感がある。
『モーアンが足を滑らせて落ちちゃうほどなのにねぇ?』
「実際には落ちないでしがみついたんだからその健闘は讃えてほしいなぁ?」
『あ、その地震ワシじゃよ』
と、ミューとモーアンの間に潜り込むように割って入る小さな火の玉。光の精霊ディアマントだ。
「えっ!?」
「爺さん、きらめきの森にいたはずじゃ?」
森をあとにする一行を笑顔で見送ったはずのディアマントは、光を散らしながら彼らの周りを舞い遊ぶ。
『確かにあの森はワシのまいほーむじゃが、精霊は契約者と繋がっておるからのう』
「けい、やく?」
『あ、言っとらんかったか。お主ら“聖なる種子”を授かっとるじゃろ?』
そう言われてエイミたちは自分の胸元に視線を落とし、手をあてる。女神レレニティアから授けられた力は、穢れた力から身を守ってくれた。
己の内に確かに存在するそれを、今もはっきりと感じている。
『精霊たちが気づくはずだって言ってたけど、ホントにわかるのね……』
『とーぜんじゃ。女神様が力を授けるなど相当な事態なんじゃぞ。実際ワシもとんでもない目に遭ったし、正直元凶をぱんちしてやりたい……が、ワシら精霊も女神様も直接力を行使することはできんのじゃよ』
一行は「意外と血の気が多いな」や「ぱんちする手はどこに……?」という言葉を静かに飲み込んだ。
『じゃから、ワシはお主らと契約を結び、力を貸すのじゃ』
「いつの間に契約なんかしてたんだよ」
「一方的に勝手に結んじゃうのって契約って言わなくない?」
『よろしくたのむぞっ』
「うわウインクで誤魔化した」
男性陣からの総ツッコミを軽くスルーして、愛嬌をたっぷり振りまくディアマント。
だがモーアンにはもうひとつ、この愛らしさを前にしてもどうしても流せないことがあった。
「あの、アマ爺……さっき地震は自分がどうのって……」
『おお、そうじゃったな!』
手があれば、ポンと打っていたであろう調子でディアマントの言葉は続く。
『穢れに取り憑かれた時に苦しくて苦しくて、森を飛び出して、洞窟で大暴れしちゃってのう。その時の揺れじゃよ。あちこちぶつかって崩れちまってのう』
「なっ……じゃ、じゃあやっぱりアマ爺が……」
モーアンからすれば危うく転落、先に落とした杖と同じ運命を辿っていたかもしれないことだ。
命に関わる話で、怒りをぶつけても仕方のないことだが……
『なんじゃ、あの時そこにいたのか。そりゃ悪かったのう』
「……いや」
モーアンはそこで、静かに首を横に振った。
「おかげで彼らとも出会えた。その結果、ノクスの手がかりに繋がったんだ。結果オーライだよ、アマ爺」
『おぬし……』
ふわり微笑むモーアンをじっと見つめるディアマント。
ちなみに『でも洞窟に入ったタイミング的にどのみちすれ違ってたわよね』などと言いかけたミューがエイミとフォンドに素早く口を塞がれたのだが、モーアンはそっと気づかないフリをしていたとか。
「今回は何事もなく抜けられたなー」
目の上に手を翳して日差しを遮りながらぱちぱちとまばたきをするフォンド。明るいところに目を慣らしたところでその手を下ろした。
僅かに吹く外の風が心地よい。湿った空気や薄暗さ、岩壁の窮屈さから解放され、清々しそうに伸びをする。
「そういえば、あの時の揺れは何だったのでしょう?」
「そうそう。あれだけ揺れたのにルクシアルでは騒いでる様子がなくて、尋ねてみたら「そんなの知らない」って言われたんだよ」
エイミたちとモーアンが出会う直前に起きた地震は通路の一部を崩落させるほどのものだった。
それなのに、すぐ近くの町で全く話題になっていなかったというのは違和感がある。
『モーアンが足を滑らせて落ちちゃうほどなのにねぇ?』
「実際には落ちないでしがみついたんだからその健闘は讃えてほしいなぁ?」
『あ、その地震ワシじゃよ』
と、ミューとモーアンの間に潜り込むように割って入る小さな火の玉。光の精霊ディアマントだ。
「えっ!?」
「爺さん、きらめきの森にいたはずじゃ?」
森をあとにする一行を笑顔で見送ったはずのディアマントは、光を散らしながら彼らの周りを舞い遊ぶ。
『確かにあの森はワシのまいほーむじゃが、精霊は契約者と繋がっておるからのう』
「けい、やく?」
『あ、言っとらんかったか。お主ら“聖なる種子”を授かっとるじゃろ?』
そう言われてエイミたちは自分の胸元に視線を落とし、手をあてる。女神レレニティアから授けられた力は、穢れた力から身を守ってくれた。
己の内に確かに存在するそれを、今もはっきりと感じている。
『精霊たちが気づくはずだって言ってたけど、ホントにわかるのね……』
『とーぜんじゃ。女神様が力を授けるなど相当な事態なんじゃぞ。実際ワシもとんでもない目に遭ったし、正直元凶をぱんちしてやりたい……が、ワシら精霊も女神様も直接力を行使することはできんのじゃよ』
一行は「意外と血の気が多いな」や「ぱんちする手はどこに……?」という言葉を静かに飲み込んだ。
『じゃから、ワシはお主らと契約を結び、力を貸すのじゃ』
「いつの間に契約なんかしてたんだよ」
「一方的に勝手に結んじゃうのって契約って言わなくない?」
『よろしくたのむぞっ』
「うわウインクで誤魔化した」
男性陣からの総ツッコミを軽くスルーして、愛嬌をたっぷり振りまくディアマント。
だがモーアンにはもうひとつ、この愛らしさを前にしてもどうしても流せないことがあった。
「あの、アマ爺……さっき地震は自分がどうのって……」
『おお、そうじゃったな!』
手があれば、ポンと打っていたであろう調子でディアマントの言葉は続く。
『穢れに取り憑かれた時に苦しくて苦しくて、森を飛び出して、洞窟で大暴れしちゃってのう。その時の揺れじゃよ。あちこちぶつかって崩れちまってのう』
「なっ……じゃ、じゃあやっぱりアマ爺が……」
モーアンからすれば危うく転落、先に落とした杖と同じ運命を辿っていたかもしれないことだ。
命に関わる話で、怒りをぶつけても仕方のないことだが……
『なんじゃ、あの時そこにいたのか。そりゃ悪かったのう』
「……いや」
モーアンはそこで、静かに首を横に振った。
「おかげで彼らとも出会えた。その結果、ノクスの手がかりに繋がったんだ。結果オーライだよ、アマ爺」
『おぬし……』
ふわり微笑むモーアンをじっと見つめるディアマント。
ちなみに『でも洞窟に入ったタイミング的にどのみちすれ違ってたわよね』などと言いかけたミューがエイミとフォンドに素早く口を塞がれたのだが、モーアンはそっと気づかないフリをしていたとか。