7:精霊との契約
ルクシアルから港へと戻るため、再び洞窟を通ることとなった一行。
相変わらずじめじめと薄暗いが、仲間が増えて賑やかになった今はそれほど気にならない。
『あー、せっかくエイミと飛べるようになったのに、全然余韻に浸る暇がなかったわ』
光精霊のやかましさに、精霊を穢して暴走させた者の存在。加えてそれが、モーアンが追っていたという親友かもしれないことまで。
それらの出来事に追いやられて、ようやく今になってミューはぼやくように呟いた。
「ミュー、いっぱい努力したもんね。わたしもうまくやれて良かったわ」
「うんうん。ふたりとも、カッコ良かったよ」
直球の褒め言葉に慣れていなかったミューが思わず赤面するが、照れ隠しにそっぽを向くと尻尾を激しく振った。
「そういや、ずっとあの姿じゃいられないのか?」
『あー……こういう狭い場所もあるし、ドラゴニカならともかく余所であの姿でいたら人間は怖がるでしょ。世界中飛び回ってる配達竜っていうのがいるにはいるけど、その辺をうろつくもんじゃないし』
ドラゴニカでは当たり前のように人間のパートナーとしている竜も、言ってしまえば魔物の一種。個体にもよるがその大きさや強さが畏怖の対象になる可能性は充分に有り得るのだ。
『だから、普段はこの姿でいるのが都合がいいの。ラクだしね』
「そっか」
あっさりとしたフォンドの返答にミューは首を傾げる。
『そんだけ?』
「なんか訳ありなのは戦闘中のやりとりでなんとなくわかるし、話したくないならそれ以上踏み込まねえよ」
「そうそう。それよりも今は、飛べて良かったねって」
竜と共に飛べるようになって一人前とされる竜騎士のエイミが見習いを名乗っていたことと、ミューの人を乗せて飛ぶことへの躊躇。
ある程度想像はできるけれど、それは当人達の問題であって、今飛べるようになったのならまずはそれを喜ぶだけの時間でも良いだろう。
まだ知りあって間もない関係。ドライなようでいて、無闇に踏み込まないことも尊重のひとつだから。
『……ありがと』
「え?」
『なんでもないわよ! 別に、隠すほどのことでもないし……』
ミューは気恥ずかしそうに口ごもり、やがて目を伏せて語りだした。
『五年くらい前よ。初めてあの姿になれるようになって、舞い上がってエイミを乗せたの。けど、うまく飛べなくて落としちゃって……エイミに大怪我させてしまったわ』
だいたいの予想通りの話だった。けれども、改めて口に出したそれは、重い。
と、そこに進み出たのはエイミだった。
「だからわたし、耐えられるようにいっぱい鍛えたのよ?」
きょとんと瞬いた蒼穹の瞳。当たり前のようにそう言うエイミは、確かにいつでも真剣に、少しやり過ぎなほどに鍛錬を重ねてきた。
『も、もしかしてだけど、アンタが修行バカになったのって』
「あの時落っこちたのはわたしの鍛え方が足りなかったから。弛まぬ鍛錬は全てを解決するって気づいたの!」
『エイミが脳筋になったの私のせいじゃなーーーーい!?』
腕があったら頭を抱えていたであろうミューの叫びが洞窟内に響き渡る。
「いやそれは違うぜミュー。エイミはたぶんどのみちこうなってたと思う!」
『フォローになっとらんわぁ!』
ぎゃあぎゃあと騒がしい彼らに、様子を窺っていた魔物たちも遠巻きになっていた。
そんな気配を見渡して、エイミは隣にいたモーアンと顔を見合わせ、笑う。
「ふふ、仲良しですね」
「うんうん、微笑ましいねぇ」
賑やかになった旅路は、この先どんな困難が待ち受けているかわからない。
だが、決して退屈だけはしないのだろう。ふたりは強く、そう思うのだった。
相変わらずじめじめと薄暗いが、仲間が増えて賑やかになった今はそれほど気にならない。
『あー、せっかくエイミと飛べるようになったのに、全然余韻に浸る暇がなかったわ』
光精霊のやかましさに、精霊を穢して暴走させた者の存在。加えてそれが、モーアンが追っていたという親友かもしれないことまで。
それらの出来事に追いやられて、ようやく今になってミューはぼやくように呟いた。
「ミュー、いっぱい努力したもんね。わたしもうまくやれて良かったわ」
「うんうん。ふたりとも、カッコ良かったよ」
直球の褒め言葉に慣れていなかったミューが思わず赤面するが、照れ隠しにそっぽを向くと尻尾を激しく振った。
「そういや、ずっとあの姿じゃいられないのか?」
『あー……こういう狭い場所もあるし、ドラゴニカならともかく余所であの姿でいたら人間は怖がるでしょ。世界中飛び回ってる配達竜っていうのがいるにはいるけど、その辺をうろつくもんじゃないし』
ドラゴニカでは当たり前のように人間のパートナーとしている竜も、言ってしまえば魔物の一種。個体にもよるがその大きさや強さが畏怖の対象になる可能性は充分に有り得るのだ。
『だから、普段はこの姿でいるのが都合がいいの。ラクだしね』
「そっか」
あっさりとしたフォンドの返答にミューは首を傾げる。
『そんだけ?』
「なんか訳ありなのは戦闘中のやりとりでなんとなくわかるし、話したくないならそれ以上踏み込まねえよ」
「そうそう。それよりも今は、飛べて良かったねって」
竜と共に飛べるようになって一人前とされる竜騎士のエイミが見習いを名乗っていたことと、ミューの人を乗せて飛ぶことへの躊躇。
ある程度想像はできるけれど、それは当人達の問題であって、今飛べるようになったのならまずはそれを喜ぶだけの時間でも良いだろう。
まだ知りあって間もない関係。ドライなようでいて、無闇に踏み込まないことも尊重のひとつだから。
『……ありがと』
「え?」
『なんでもないわよ! 別に、隠すほどのことでもないし……』
ミューは気恥ずかしそうに口ごもり、やがて目を伏せて語りだした。
『五年くらい前よ。初めてあの姿になれるようになって、舞い上がってエイミを乗せたの。けど、うまく飛べなくて落としちゃって……エイミに大怪我させてしまったわ』
だいたいの予想通りの話だった。けれども、改めて口に出したそれは、重い。
と、そこに進み出たのはエイミだった。
「だからわたし、耐えられるようにいっぱい鍛えたのよ?」
きょとんと瞬いた蒼穹の瞳。当たり前のようにそう言うエイミは、確かにいつでも真剣に、少しやり過ぎなほどに鍛錬を重ねてきた。
『も、もしかしてだけど、アンタが修行バカになったのって』
「あの時落っこちたのはわたしの鍛え方が足りなかったから。弛まぬ鍛錬は全てを解決するって気づいたの!」
『エイミが脳筋になったの私のせいじゃなーーーーい!?』
腕があったら頭を抱えていたであろうミューの叫びが洞窟内に響き渡る。
「いやそれは違うぜミュー。エイミはたぶんどのみちこうなってたと思う!」
『フォローになっとらんわぁ!』
ぎゃあぎゃあと騒がしい彼らに、様子を窺っていた魔物たちも遠巻きになっていた。
そんな気配を見渡して、エイミは隣にいたモーアンと顔を見合わせ、笑う。
「ふふ、仲良しですね」
「うんうん、微笑ましいねぇ」
賑やかになった旅路は、この先どんな困難が待ち受けているかわからない。
だが、決して退屈だけはしないのだろう。ふたりは強く、そう思うのだった。