6:踏み出して、最初の一歩
再び光の中から現れたミューは、あの手のひらサイズの丸っこい蛇のような姿から一変していた。
細く長く変わったしなやかな体は人ひとり乗せられるほどに。水色の鱗が瑞々しくきらめき、もともとあった白い翼のような鰭も大きくなり一対から二対に増え、目はすっと切れ長に。エイミとお揃いの白いリボンは、尻尾の先に――ちょうどいつもの姿を美しく成長させたらこんな感じだろうという見た目だ。
空を大海に泳ぐ神秘的な水竜の姿は、誰もが、魔物でさえも、一瞬見惚れるほどのものだった。
「ミュー、綺麗……」
『積もる話はあるけど、いくわよエイミ!』
少し低く大人びた声で、いつもの口調で。短くそれだけ言い放つと、エイミのもとへと飛んでいく。
他より少し太い胴体のあたりに飛び乗ったエイミは、槍を構え、意識を研ぎ澄ました。
(伝わってくる……ミューの鼓動、意思が手に取るように)
ふたりは黒い霧を突き破り森の木々より遥かに高くまで飛ぶと、魔物めがけてそのまま一気に降下した。
流れ星となったエイミの槍は、その勢いを乗せて、一直線に魔物に突き立てられる。
「やった……!」
思わずそう口に出したのは、フォンドだった。
すると衝撃で硬直した魔物の輪郭がぼやけ、外側から徐々に黒い霧となって消えていく。
やがて中から現れたのは……魔物の中にうっすら見えていた、両手で抱えるほどの大きさの白い灯火だった。
『これは……?』
元の姿に戻ったミューが、エイミの頭に留まる。どうやら少し疲れたらしい。
「白い火の玉……に、目があるな」
「もしかして、光の精霊さん、ですか……?」
白い火の玉の目は閉ざされていたが、少しするとぱちりと開き、二、三度まばたきをする。
『んんんーっ……』
火の玉はぶるりと身震いをし、ぎゅ、と収縮。そして一気に弾けるように大きくなり、辺りに光を振り撒いた。
「森が……!」
いるだけで陰鬱とした気分になりそうな黒いモヤで満ちた薄暗い森は、モーアンが言っていたようなキラキラとした光の粒子漂う明るい景色に変わる。
これが本来の“きらめきの森”。そして、一瞬でそんな光景を生み出したこの白い火の玉は……
『助けてくれてさんきゅーなのじゃ。ワシは何を隠そう、光の精霊ディアマント。ディアじーちゃんとかアマちゃんって呼んでくれてええぞ!』
「ア、アマちゃん?」
そう言って親しげに笑う、やたらと砕けた老人のような口調の彼こそはディアマント。
穏やかな陽だまりから目を灼くような輝きまで、この世界の光を司る精霊だ。
『なんかえらくフランクなのが来たわね……』
「精霊、思ってたのと違うな……」
エイミと初めて一緒に飛ぶことができた喜びに浸れるのは、もう少し先になりそうだ。
ミューはそんなことを思いながら、目の前ではしゃぐ精霊を見つめるのであった。
細く長く変わったしなやかな体は人ひとり乗せられるほどに。水色の鱗が瑞々しくきらめき、もともとあった白い翼のような鰭も大きくなり一対から二対に増え、目はすっと切れ長に。エイミとお揃いの白いリボンは、尻尾の先に――ちょうどいつもの姿を美しく成長させたらこんな感じだろうという見た目だ。
空を大海に泳ぐ神秘的な水竜の姿は、誰もが、魔物でさえも、一瞬見惚れるほどのものだった。
「ミュー、綺麗……」
『積もる話はあるけど、いくわよエイミ!』
少し低く大人びた声で、いつもの口調で。短くそれだけ言い放つと、エイミのもとへと飛んでいく。
他より少し太い胴体のあたりに飛び乗ったエイミは、槍を構え、意識を研ぎ澄ました。
(伝わってくる……ミューの鼓動、意思が手に取るように)
ふたりは黒い霧を突き破り森の木々より遥かに高くまで飛ぶと、魔物めがけてそのまま一気に降下した。
流れ星となったエイミの槍は、その勢いを乗せて、一直線に魔物に突き立てられる。
「やった……!」
思わずそう口に出したのは、フォンドだった。
すると衝撃で硬直した魔物の輪郭がぼやけ、外側から徐々に黒い霧となって消えていく。
やがて中から現れたのは……魔物の中にうっすら見えていた、両手で抱えるほどの大きさの白い灯火だった。
『これは……?』
元の姿に戻ったミューが、エイミの頭に留まる。どうやら少し疲れたらしい。
「白い火の玉……に、目があるな」
「もしかして、光の精霊さん、ですか……?」
白い火の玉の目は閉ざされていたが、少しするとぱちりと開き、二、三度まばたきをする。
『んんんーっ……』
火の玉はぶるりと身震いをし、ぎゅ、と収縮。そして一気に弾けるように大きくなり、辺りに光を振り撒いた。
「森が……!」
いるだけで陰鬱とした気分になりそうな黒いモヤで満ちた薄暗い森は、モーアンが言っていたようなキラキラとした光の粒子漂う明るい景色に変わる。
これが本来の“きらめきの森”。そして、一瞬でそんな光景を生み出したこの白い火の玉は……
『助けてくれてさんきゅーなのじゃ。ワシは何を隠そう、光の精霊ディアマント。ディアじーちゃんとかアマちゃんって呼んでくれてええぞ!』
「ア、アマちゃん?」
そう言って親しげに笑う、やたらと砕けた老人のような口調の彼こそはディアマント。
穏やかな陽だまりから目を灼くような輝きまで、この世界の光を司る精霊だ。
『なんかえらくフランクなのが来たわね……』
「精霊、思ってたのと違うな……」
エイミと初めて一緒に飛ぶことができた喜びに浸れるのは、もう少し先になりそうだ。
ミューはそんなことを思いながら、目の前ではしゃぐ精霊を見つめるのであった。