6:踏み出して、最初の一歩
かつて、魔族が人間界の侵略のために引き連れてきた魔物たちは大半が獰猛で凶悪な存在だった。
魔界から切り離されこの世界で生きるようになった今でも理由もなく人間を襲うようなものは多いが、自分からむやみに牙を剥くこともなく、ただ自然の一部として生きるだけ、というものも増えてきた……はずだった。
「いやはや、ここの魔物は比較的穏やかなのが多かったはずなんだけどねぇ」
「か、囲まれてますっ!」
「めちゃめちゃ好戦的じゃねーか!」
ウサギに似た丸い獣型と、人間の子供くらいの大きさがある、手足が生えた巨大キノコ。
それらの群れがエイミたちをぐるりと囲み、目や牙をギラつかせて今にも飛びかかりそうな勢いだ。
『やらなきゃやられるわね……!』
「わかってる、けど……」
この中には本来は森の中で平和に暮らしていただけの魔物もいるかもしれない。槍の柄を手に、エイミが俯く。
「あの魔物たちについた黒いモヤだけ取り払えれば最高なんだけどね。今の僕たちを覆う女神様の加護みたいに、寄せ付けないのと似た要領でさ」
「モヤだけを払う、か……」
モーアンの言葉を聞き、フォンドは己の拳に視線を落とす。と、それを隙と見た一体がすかさず襲いかかってきた。
「うおっ、あぶねぇ!」
「フォンド!」
咄嗟に身を翻し放った一撃が獣のボディの真ん中に突き刺さり、そのまま殴り飛ばす。ギィ、と声をあげて吹っ飛んだ魔物から黒い衣が引き剥がされ、霧散した。
「……あれ?」
「これは、もしかしたら……エイミ!」
「はいっ!」
状況を理解したモーアンのひと声より早く駆け出したエイミが力強く踏み込むと横薙ぎに槍を払い、まとめて攻撃する。
穂先に絡め取られるようにして魔物からモヤが離れ、やはり消えていった。
一瞬気絶した魔物が目を覚ますときょとんとしており、周りの異様な雰囲気に気づくと慌てて森の奥へと逃げ……一行はその光景で確信する。
『女神の加護が武器……というか、攻撃自体に宿ってると考えた方がいいのかしら?』
「攻撃で正気に戻せるのか。それなら遠慮なくブチのめせるぜ!」
乾いた音を立てて手のひらに拳を打ちつけ、ニヤリと笑うフォンド。エイミも安堵の息を吐き、改めて敵に向き直る。
(姉様ならきっと躊躇わなかったわ。もっとしっかりしなきゃ……!)
自分だって王族の一員だ。人々を守るため、率先して前に出なければならない時に迷ってなどいられない。
戸惑いを振り払い、エイミの槍が鋭さを増す。
そうなってからは、戦闘終了までさほど時間はかからなかった。
「はぁー、どうなることかと思ったよ」
盛大な溜息を吐くモーアンを横目に、フォンドは魔物たちが逃げていった先へと視線を送る。
「……一度は正気に戻せたけど、森がこのままだとまたいつ取り憑かれるかわからねぇな」
「ええ。一刻も早く原因を突き止めましょう」
そう言って先に進もうとした前衛ふたりを「あ、まって」とモーアンが呼び止める。
彼は傷ついたふたりに向かって手を翳すと、目を閉じ、意識を集中させた。
「痛いの痛いのー、飛んでけっ!」
「「!」」
光が集まり、エイミたちの体を優しく包む。あちこちにあった小さな傷がみるみる塞がり、見た目だけでなく痛みも消えていくのを感じた。
「すげえ、これが回復魔法……」
「えっへん。得意だって言ったでしょ?」
攻撃魔法はまだできないけどね、と付け加えながら、それでもモーアンは得意げにウインクしてみせるのだった。
魔界から切り離されこの世界で生きるようになった今でも理由もなく人間を襲うようなものは多いが、自分からむやみに牙を剥くこともなく、ただ自然の一部として生きるだけ、というものも増えてきた……はずだった。
「いやはや、ここの魔物は比較的穏やかなのが多かったはずなんだけどねぇ」
「か、囲まれてますっ!」
「めちゃめちゃ好戦的じゃねーか!」
ウサギに似た丸い獣型と、人間の子供くらいの大きさがある、手足が生えた巨大キノコ。
それらの群れがエイミたちをぐるりと囲み、目や牙をギラつかせて今にも飛びかかりそうな勢いだ。
『やらなきゃやられるわね……!』
「わかってる、けど……」
この中には本来は森の中で平和に暮らしていただけの魔物もいるかもしれない。槍の柄を手に、エイミが俯く。
「あの魔物たちについた黒いモヤだけ取り払えれば最高なんだけどね。今の僕たちを覆う女神様の加護みたいに、寄せ付けないのと似た要領でさ」
「モヤだけを払う、か……」
モーアンの言葉を聞き、フォンドは己の拳に視線を落とす。と、それを隙と見た一体がすかさず襲いかかってきた。
「うおっ、あぶねぇ!」
「フォンド!」
咄嗟に身を翻し放った一撃が獣のボディの真ん中に突き刺さり、そのまま殴り飛ばす。ギィ、と声をあげて吹っ飛んだ魔物から黒い衣が引き剥がされ、霧散した。
「……あれ?」
「これは、もしかしたら……エイミ!」
「はいっ!」
状況を理解したモーアンのひと声より早く駆け出したエイミが力強く踏み込むと横薙ぎに槍を払い、まとめて攻撃する。
穂先に絡め取られるようにして魔物からモヤが離れ、やはり消えていった。
一瞬気絶した魔物が目を覚ますときょとんとしており、周りの異様な雰囲気に気づくと慌てて森の奥へと逃げ……一行はその光景で確信する。
『女神の加護が武器……というか、攻撃自体に宿ってると考えた方がいいのかしら?』
「攻撃で正気に戻せるのか。それなら遠慮なくブチのめせるぜ!」
乾いた音を立てて手のひらに拳を打ちつけ、ニヤリと笑うフォンド。エイミも安堵の息を吐き、改めて敵に向き直る。
(姉様ならきっと躊躇わなかったわ。もっとしっかりしなきゃ……!)
自分だって王族の一員だ。人々を守るため、率先して前に出なければならない時に迷ってなどいられない。
戸惑いを振り払い、エイミの槍が鋭さを増す。
そうなってからは、戦闘終了までさほど時間はかからなかった。
「はぁー、どうなることかと思ったよ」
盛大な溜息を吐くモーアンを横目に、フォンドは魔物たちが逃げていった先へと視線を送る。
「……一度は正気に戻せたけど、森がこのままだとまたいつ取り憑かれるかわからねぇな」
「ええ。一刻も早く原因を突き止めましょう」
そう言って先に進もうとした前衛ふたりを「あ、まって」とモーアンが呼び止める。
彼は傷ついたふたりに向かって手を翳すと、目を閉じ、意識を集中させた。
「痛いの痛いのー、飛んでけっ!」
「「!」」
光が集まり、エイミたちの体を優しく包む。あちこちにあった小さな傷がみるみる塞がり、見た目だけでなく痛みも消えていくのを感じた。
「すげえ、これが回復魔法……」
「えっへん。得意だって言ったでしょ?」
攻撃魔法はまだできないけどね、と付け加えながら、それでもモーアンは得意げにウインクしてみせるのだった。