6:踏み出して、最初の一歩

 ルクシアルの近くにあり、光の精霊が住むはずの“きらめきの森”……その変わり果てた光景に、モーアンは驚きを隠せない様子だった。
 黒いモヤのような霧がたちこめる不気味な森は、少し先の景色すらおぼろげで。

「うへぇ、どんよりしてて息苦しいぜ」
「僕が最後に見た時はこんなんじゃなかったのに……ほんの二、三日の話だよ」

 旅立ちの直前に訪れた時はいつもの森に見えた。
 ルクシアルを出て、洞窟でエイミたちと出会って、さらに戻ってから謁見のために一晩。たったそれだけの間にこうなってしまったのだから、彼の動揺は無理もない話だ。

『ってコトは……ホントに旅立ってすぐだったのね、あの落っこちかけてた状態は』
「意気込んで旅立った出鼻を思いっきり挫かれたんだな……」
「今その話はやめといてくれるかな!?」

 意を決して旅に出た直後に足を滑らせて足場から落ちそうになり助けてもらった、まだ記憶に新しい苦い思い出。
 痛いところを突かれたモーアンはがっくりとうなだれるが……

「それより……わたしたち、こんなところにいて大丈夫でしょうか?」
「ああ、これが魔物やノクスを豹変させた“黒いモヤ”なら僕たちも危ないってことだけど……」

 不安に襲われたエイミが胸元に置いた手をぎゅうっと握る。
 すると、彼らの内側から虹色の光が発せられ、その全身を膜のように薄く覆う。

『な、なに?』
「なんだか呼吸が楽になった気が……体も、纏わりついていたものが取れていくみたいです」

 光の膜はすぐに見えなくなったが、森を訪れた時の息苦しさは消えたまま。
 ルクシアルの神殿で授けられた女神レレニティアの力の一部が、彼らを守ってくれている。理屈でなく、そう思えるような感覚がした。

「うーん……たぶん女神様のご加護、かな?」
「神官がそんなあやふやでいいのかよ」
「あはは、そういう神官がいたっていいじゃないか」

 視界が悪いという問題は残っているが、体の負担と取り憑かれる心配さえなくなればどうにか進めそうだ。

「とにかく行きましょう。凶暴化した魔物が襲ってくるかもしれませんから、気を引き締めて」
『気を引き締めてってさ。言われてるわよ』
「これでもちゃんと引き締めてるよ」

 ミューにつつかれて苦笑いのモーアンと、後衛である彼を守るように前に出るフォンド、そしてエイミ。
 新たな仲間を得た一行の、初めての冒険が始まろうとしていた。
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