5:神託
女神の気配が去った聖堂で一同はしばらく考え込んでいたが、最初に口を開いたのは大神官だった。
「……これもレレニティア様のお導き、ということか。未来ある若者に危険な旅をさせることになってしまうのは心苦しいが……きっと女神様も思うところあっての御神託だったのだろう」
女神がいたずらにエイミたちを選んだとは思えない、と内に含めて、視線をモーアンへ移す。
「モーアン、彼らについて行きなさい」
「えっ、僕?」
「お前も選ばれたひとりだろう。それに彼らだけに旅をさせるのは心配じゃないのか?」
こんな少年少女を放って置く、お前はそんな薄情な男だったのか?
軽く咎めるような視線は、けれどもモーアンの返答を知っているかのようでもあった。
「……これも縁、ってことですかねぇ」
頭を大げさに掻きながら、若き神官は溜息を吐く。
再びエイミたちのもとに戻った彼は、若者たちをぐるりと見渡した。
「いろいろ起きて大変なことになってるけど、きみたちはどうしたいんだい?」
「オレは……」
紺桔梗の瞳が僅かに揺れ、俯く。だがすぐにフォンドは顔を上げ、
「オレはまだまだ親父の背中を追いかけてるひよっこだ。けど、大事な町を壊されて、また家族を喪うかもしれない事態になって、じっとしてなんかいられねえ」
しっかりと芯の通った声で、そう返した。
「わたしも、同じ気持ちです。ドラゴニカのことはもちろんですが、世界に危機が迫っているというのなら……!」
『この子、昔から正義感強い熱血さんなのよ。こうなったらもう止められないわ。正直帰って寝たいけど、今はその帰る場所もないのよねぇ……』
エイミは先程と変わらず強い決意を、ミューは少しの諦めをもって。
彼らの返答を受けたモーアンが、優しく微笑む。
「ホントはひとりでノクスを追うつもりだったけど、そうもいかなくなっちゃったなぁ。むしろ、きみたちと同行した方が彼に辿り着けそうだ」
「じゃあ……!」
「きみたちの保護者役、謹んで引き受けよう。改めてよろしくね」
わぁっ、と嬉しそうに目を輝かせるエイミ。そこに大神官がわざとらしく咳払いをする。
「保護者役が立場逆転せんようにな」
「ちょっとちょっとルーメン様ぁ!?」
「冗談だ。こんな奴だがこう見えて頭は切れる。意外と頼りになるかもしれんぞ」
「一言も二言も三言も余計なんですけど……?」
あんまりな物言いに抗議するモーアンを「早く行け」と追い払い、聖堂の外に消えたのを確認すると残されたエイミたちを呼び止める。
「モーアンのことをよろしく頼む」
『大神官といち神官が、随分仲が良いのね』
「失踪したノクスと共に幼い頃から見てきたからな。のんびり屋のモーアンとわんぱく小僧のノクス、ふたり揃って神官になるとはなぁ」
言いながら、大神官はモーアンが去った出入り口に背を向け、ステンドグラスを見上げた。
「モーアンは才能はあるんだが出世欲がない。そういうのはノクスに任せて自分はのんびりやる、が口癖でな……幼馴染のノクスとのことは相当ショックを受けているだろう。それこそ、黙ってひとりでルクシアルを飛び出すほどにな」
聖堂の扉は開いたまま。知ってか知らずか、ひとつ息を吸い込んで。
「……ふたり揃って帰って来い。これは、私の独り言だ」
最後に、やや声量を上げてのその言葉は、外で待つモーアンの耳に届いたのか。
エイミたちが聖堂を出た時に振り返ったモーアンの笑顔からは、それはわからなかった。
「……これもレレニティア様のお導き、ということか。未来ある若者に危険な旅をさせることになってしまうのは心苦しいが……きっと女神様も思うところあっての御神託だったのだろう」
女神がいたずらにエイミたちを選んだとは思えない、と内に含めて、視線をモーアンへ移す。
「モーアン、彼らについて行きなさい」
「えっ、僕?」
「お前も選ばれたひとりだろう。それに彼らだけに旅をさせるのは心配じゃないのか?」
こんな少年少女を放って置く、お前はそんな薄情な男だったのか?
軽く咎めるような視線は、けれどもモーアンの返答を知っているかのようでもあった。
「……これも縁、ってことですかねぇ」
頭を大げさに掻きながら、若き神官は溜息を吐く。
再びエイミたちのもとに戻った彼は、若者たちをぐるりと見渡した。
「いろいろ起きて大変なことになってるけど、きみたちはどうしたいんだい?」
「オレは……」
紺桔梗の瞳が僅かに揺れ、俯く。だがすぐにフォンドは顔を上げ、
「オレはまだまだ親父の背中を追いかけてるひよっこだ。けど、大事な町を壊されて、また家族を喪うかもしれない事態になって、じっとしてなんかいられねえ」
しっかりと芯の通った声で、そう返した。
「わたしも、同じ気持ちです。ドラゴニカのことはもちろんですが、世界に危機が迫っているというのなら……!」
『この子、昔から正義感強い熱血さんなのよ。こうなったらもう止められないわ。正直帰って寝たいけど、今はその帰る場所もないのよねぇ……』
エイミは先程と変わらず強い決意を、ミューは少しの諦めをもって。
彼らの返答を受けたモーアンが、優しく微笑む。
「ホントはひとりでノクスを追うつもりだったけど、そうもいかなくなっちゃったなぁ。むしろ、きみたちと同行した方が彼に辿り着けそうだ」
「じゃあ……!」
「きみたちの保護者役、謹んで引き受けよう。改めてよろしくね」
わぁっ、と嬉しそうに目を輝かせるエイミ。そこに大神官がわざとらしく咳払いをする。
「保護者役が立場逆転せんようにな」
「ちょっとちょっとルーメン様ぁ!?」
「冗談だ。こんな奴だがこう見えて頭は切れる。意外と頼りになるかもしれんぞ」
「一言も二言も三言も余計なんですけど……?」
あんまりな物言いに抗議するモーアンを「早く行け」と追い払い、聖堂の外に消えたのを確認すると残されたエイミたちを呼び止める。
「モーアンのことをよろしく頼む」
『大神官といち神官が、随分仲が良いのね』
「失踪したノクスと共に幼い頃から見てきたからな。のんびり屋のモーアンとわんぱく小僧のノクス、ふたり揃って神官になるとはなぁ」
言いながら、大神官はモーアンが去った出入り口に背を向け、ステンドグラスを見上げた。
「モーアンは才能はあるんだが出世欲がない。そういうのはノクスに任せて自分はのんびりやる、が口癖でな……幼馴染のノクスとのことは相当ショックを受けているだろう。それこそ、黙ってひとりでルクシアルを飛び出すほどにな」
聖堂の扉は開いたまま。知ってか知らずか、ひとつ息を吸い込んで。
「……ふたり揃って帰って来い。これは、私の独り言だ」
最後に、やや声量を上げてのその言葉は、外で待つモーアンの耳に届いたのか。
エイミたちが聖堂を出た時に振り返ったモーアンの笑顔からは、それはわからなかった。