62:楽園の終わり

 テプティが完全に消滅すると、操られていたレオンとトルメンテに変化が訪れる。
 色のない、悪魔によって造られた仮初の体が色彩と表情を取り戻し、まるで生前そのもののような姿に戻ったのだ。

「自由に動ける……」
「こりゃあ、どういうこった?」

 驚き、辺りを見回すふたり。そこに光精霊ディアマントがゆらりと姿を現す。

『聖なる種子の力を使い、悪魔の魔力で造られたその体を浄化させて貰った。いつかは消えてしまうことには変わりないが……別れの時間くらいは作れるじゃろう』
「ディアマントさん……」
『さすがに完全に生き返らせることはできんが、このくらいは……のう?』

 死してなお、望まぬ戦いを強いられて、大切な人を傷つけさせられた。
 その上、創造主たる悪魔が死んだらそのまま消滅だなんて、あんまりではないかと光精霊は言う。

「充分です。心から感謝いたします」
「天寿を全うしたジジイにそんな配慮をいただけるたぁ、ありがたいねぇ」

 ふたりは光精霊に一礼すると、くるりと踵を返す。
 視線がかち合ったシグルスとサニーが、それぞれ背筋をのばした。

「シグルス、大きくなったな」
「!」
「背丈はすっかり追い越されたし、アムリアに似て美人さんだ。それに……強くなった」

 レオンは我が子に歩み寄ると、肩を、腕を、鍛え上げた筋肉を確かめるように触れていく。
 紫がかった黒髪に優しげな青い目。彼はシグルスより少し背が低く、けれども騎士らしくしっかりした体つきをしていた。

「操られていた時もうっすら意識はあったが……ずっと見てたぞ。たくさん努力してきたこと」
「父さん……」

 もともと積み重ねてきた鍛錬と、過酷な旅路。
 周りからは疎まれ、人間より力で劣るハーフエルフのシグルスが剣の腕を磨き、己の特性を活かした魔法も編み出して……そして、今は信頼できる仲間と共にいる。
 そんな事実が、造り物の体となってしまったはずのレオンの胸を熱くさせた。

「サニーも腕を上げたな。おれのナイフを捌くなんて、やるじゃねえか」

 へへ、と笑いながら指先で鼻下を擦るトルメンテ。
 長い白髭と結った白髪、白いマントを羽織った小柄な老人は、口を開くとからからとした印象を与える。

「じっちゃん、アタシ……」
「これからもお前の正義を貫きな。お前はこの伝説の義賊、トルメンテ様の愛弟子なんだからな」
「あ……ははっ、自分で言っちゃう?」

 サニーの声が上擦り、震える。人参色の大きな目の端には、涙が滲んでいた。
 シグルスも同様に、顔を背けて平静を装ってこそいるが、その心中は察するに余りあるだろう。
 そんなふたりを交互に見、エイミが穏やかに微笑んだ。

「ええ。ふたりとも、わたしたちの心強い仲間です」

 きっと、他の仲間たちもこう言うだろうと思うから。
 堪えきれなくなったサニーが泣きながらエイミに飛びつき、あたたかな笑いが起きた。
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