62:楽園の終わり

 同族であるイルシーを喰らい、下半身が蛇の巨大な怪物へと姿を変えた悪魔・テプティとの戦いは、簡単にはいかないながらも次第に優勢へと傾いていった。
 二体の悪魔の力があわさった多彩でいやらしい攻撃も仲間に助けられながらどうにかやり過ごし、ひとつ、ふたつとシグルスたちの攻撃が届く。

「チッ……ここまで来られたのもマグレじゃなかッタみたいね」
「当然だよ。アタシたちは沢山の人と出会って、その想いを受けて来たんだから!」

 人間だろうが同族だろうが平気で命を奪う自分本位の悪魔とは違う、とサニーが啖呵を切る。
 彼女の脳裏には、砂漠の国で父と共に奔走する王子の姿が浮かんでいた。
 大切な人を、国を、世界を守りたい。故郷や旅先で出会った人々のそんな想いを背負って、彼らは今ここにいる。

「あーもうウルッサイわね! オモイだのアイだのユウジョウだの、ムシズが走るのよ!」

 テプティは苛立ちに頭を掻きむしるが、直後にやりと笑い、両手を広げた。

「……そう。そんなにナカマが大事なら、コウいうのはドウかしら?」
「えっ……?」
「ウフフ。この魂、だーれだっ?」

 彼女の左右それぞれの掌に現れた火の玉。魔法にしては弱々しく揺らめくそれを見た瞬間、サニーたちの動きが止まる。
 ディフェットの霊廟にいた先代の王は、この近辺の死者の魂が連れ去られていると教えてくれた。
 そんなことをしそうなのは、死者に尚も苦痛を与えるべく幽霊船を作り出した悪魔たちぐらいのものだろう。
 サニーたちがそこまで察したところで、テプティはますます楽しげに笑みを深くする。

「そう。イルシーがそこのハーフエルフの父親に化けられたのも、本人がココにイルから……だとしタラ?」
「!」
「ちなみにもうひとつのコレはぁ……チビガキ、アンタならわかるデショ?」

 テプティの掌の上で、人魂が人間の形を成していく。
 色彩を失い、この世のものではないとわかる姿。一人は先程見たシグルスの父レオンの、そしてもう一人は小柄な老人の姿へと。
 彼らが現れた途端、サニーの目は老人の方へ釘付けになった。

「あ、あ……嘘だ……!」
「サニー?」
「あれは……あれはアタシのじっちゃんだよ……旅に出る一年前に死んだ、アタシの育ての親……」

 青ざめ、震える声でサニーが言う。

「アタシが義賊に、ヒーローに憧れるようになったきっかけ……ミスベリアの伝説の義賊、トルメンテ。アタシに盗賊の身のこなしや技術を叩き込んだ人だよ!」
「なんだって……!?」

 ただの少女というにはあまりにも高い技術をもったサニーの師で、伝説とまで呼ばれた義賊ともなればトルメンテへ向けられる目も変わる。
 シグルスたちの反応を見て、テプティが満足そうに目を細めた。

「この辺りノ死霊を集めたら、とんだ拾いモノだったワ。どちらもエイユウと呼ばれた実力者。オマケにアンタたちには倒しニクい相手……」

 実体を得たふたりがゆっくりと床に降り立つ。
 その表情には生気がなく、どこを見ているのかも定かではない。

「アイだのユウジョウだの語るセイギのミカタとやらが、コイツらとどうやって戦うのカシラ? キャハハハッ!」

 できれば戦いたくない相手だが、そうも言ってはいられないだろう。
 テプティの耳障りな高笑いが響く中、レオンとトルメンテは無慈悲に武器を抜き放つのだった。
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