61:悪食

 悪魔が、悪魔を喰らっている。
 あまりにも衝撃的な光景に、一同は目の前で起きていることを理解するのに時間がかかった。

『なんなのよ、これ……』

 広い括りでは魔物に分類されるミューも、その悍ましさに言葉を失う。
 悪魔が人間を自分にとっての糧を生み出すための装置か何かとしか思っていないのはわかっていたが、まさか同族すらも何の躊躇いもなく命を奪おうとするなんて……

「イイわぁ。恐怖と絶望をたっぷり含んだ澱み……アンタもイイもの出すじゃない」
「ギャァァァーッ! こっコノ性悪年増ッ…………たすっ、助けて……助けテくだサイッ……!」

 既に体の半分をテプティに食われてしまったイルシーは、とうとう敵であり見下してさえいたはずのシグルスたちに助けを求めだす。

「タス、ケ……」
「うるさいわよ」

 しかしシグルスたちが反応する間もなく、最後の一呑み。ヒトの心と命を弄んだ悪魔の、呆気ない最期だった。

「……ふぅ。最後の最後まで情けないヤツだったわねぇ」
「お、同じ悪魔の……仲間じゃなかったの!?」

 サニーの声音が非難めいた色を帯びる。
 イルシーのことはもちろん擁護のしようがないが、仲間の命を奪って悪びれもしないなんて、彼女にとっては信じられないことだったから。

「仲間ァ? アハハハハハッ!」
「!」

 口元を拭い、高らかに笑うテプティはどこか雰囲気が変わったようだった。

「群れなきゃなんもできない、アンタたちみたいな弱っちいのと一緒にしないでくれる? 仲間だ愛だ友情だ、あー気持ちワルイ!」

 ピシ、ピシ、とテプティの肌に卵の殻が割れるようにヒビが入っていく。

「強イか弱いか、利用するかされルか、食うか食わレルか。イルシーとは利害が一致してたってダケ!」

 ヒビからは紫色の煙が噴き出し、彼女の姿を隠してしまう。
 ただならぬ気配を察知したシグルスたちは、一斉にその場から飛び退いた。

「アハッ、なんだかチカラが湧いてキタわ。そっかあ。悪魔を食べルと強くなレルのね!」

 煙の奥から輝く悪魔の眼。テプティの声に、次第にもうひとつの――男の声が重なり始めた。

「せっかくだカラ教えてアゲル。アタシたちはね、この世界ヲ“澱み”を無限に生み出す世界にすルノ」
「澱みを、無限に……?」
「みーんなコロして、死者の世界にしちゃうのヨ。そしてその魂を囚えて、エイエンに苦痛を与え続けレバ……テプティちゃんセンヨウ、無限の澱み生産場のカ・ン・セ・イ!」

 さあっと煙が晴れ、テプティらしき悪魔が変わり果てた姿で現れる。
 少女のような姿は見る影もなく数倍に巨大化しており、下半身は蛇のようで、肌にも鱗が生えていた。
 こちらを見下ろす眼は黒から金色へ。横に裂けた口からは鋭い牙、ちろりと長い舌が覗き、そんな顔の右半分は白い骸骨の仮面で覆われていた。

「まずはアンタたちからよ。テプティちゃんの若さとビボウの糧にしてアゲル!」
「……もはや言葉は通じない、か。いや、そもそも最初から……」

 一行は武器を構え、恐ろしい変貌を遂げたテプティに立ち向かう。

「みんな、いくよっ!」

 自分たちが倒れれば、世界は生も死もない苦痛だけの世界に変えられてしまうだろう。
 この戦い、負けるわけにはいかない。
 サニーはそう叫ぶと、先陣を切って飛び出した。
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