60:悪夢の館へ

 館の中は豪華な造りで、綺麗な絨毯が敷かれた通路には高価そうな壺に鎧や彫像、人形なども飾られていた。
 だが照明は薄暗く、ピカピカに磨かれた白い床も、今はくすんで見える。

〈クックック……ようこそお客サマ。ここは“悪夢の館”……最上級のオモテナシでお迎えしまショウ〉
「この声……イルシーかっ!」

 天井から響くのは、以前にも聞き覚えがある耳障りで厭らしい声。
 かつてディフェット王を襲い、シグルスを罠に嵌めたあのふざけた道化師風の悪魔イルシーのものだろう。
 だがいくら辺りを見回しても、それらしき姿は見えなかった。
 そうやって探されることも予測してか、声はこう続く。

〈エー、ちなみにコチラ自動音声となっておりマース! ケヒャヒャ!〉

 全ては悪魔の掌の上。ここはそういう場所なのだと思い知らせるような笑い声に、眉や頬や口元など、全員の表情筋がぴくりと動いた。

『どこまでもムっカつくヤツね……』
「でも、この声が館じゅうに届いているならわたしたちが来たことを知られてしまったということよ。油断はできないわ」

 すると調度品の一部だと思われた鎧騎士の置物や人形の目がギラリと光り、動き出す。

〈どなたサマもどうぞごユルリと……肉体が朽ちてタマシイだけになっても、終わらない苦しみの中で永遠にお寛ぎくださいマセマセ!〉

 音声がぶつりと切れたのを合図に調度品に擬態していた魔物たちがシグルスたちめがけて一斉に襲いかかり……

「そんなことだろうと思ったよ!」

 身軽なサニーは向かってきた鎧騎士の頭をぽんと踏んで包囲の外側に脱出する。
 残ったエイミの武器に光の魔力を付与したシグルスは、すかさず彼女の後ろへと退いた。

「まずは豪快に頼むぜ、お姫様」
「わかりました!」

 エイミは魔力を帯びて輝く槍の柄をぐっと握ると頭上に掲げ、半竜人の怪力で言葉どおり思いっきり振り回す。

「はああああっ!」

 彼女を中心に回転する槍から発生した風は竜巻となり、魔物たちをも巻き上げてバラバラに吹っ飛ばした。
 ただの風ではない。武器に上乗せされた光の魔力も合わさって、ここの魔物たちには効果てきめんとなったのだ。

「すっご……」
「はは、避難しといて正解だったな」

 巻き込まれた魔物が二、三体ほど消え、包囲も崩れて一気に戦いやすくなった。
 今度はこちらの番だ。三人は頷き合うと、武器を手にそれぞれの標的へ向かって散るのだった。
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