60:悪夢の館へ

 フォンドたちを“禁呪の魔法士”ケイオスとの決戦の地、マギカルーン近くの地下遺跡入口に降ろし、翼の聖獣フリュエラは次なる目的地へと向かった。
 残ったのはエイミとミュー、シグルス、サニーという、やや珍しい組み合わせだ。

「わぁ……ディフェットの近くに知らない建物が増えてるよ!」

 サニーが指さしたのは、少し前までは影も形もなかった建造物。
 一見すると立派な館だがあちらこちらに黒い茨が絡みついており、その毒々しさやじわりと滲み出る嫌な気配に何とも言えない不気味さが感じられる。

『あれは恐らく悪魔の仕業だろう。己の活動拠点をこちらの世界に喚び出したか、造り上げたか……いずれにせよ、厄介なものには違いないだろうな』
「厄介?」
『本来、悪魔が棲むのはこちらとは壁をひとつ隔てた異世界……それが、本格的にこちらに根を下ろそうとしている。奴らの満足のいく“食事”のために』

 もともとはこちらの世界にあって切り離された魔界とは違い、悪魔は異世界からやって来たという。
 悪魔たちが“澱み”と呼ぶ、生物の負の感情を……この世界に生きるものたちを“食糧”と見做して。
 淡々と語る闇精霊コクヨウの言葉に、一行の表情がぐっと険しくなる。

「もうひとつ厄介なのは、そこが悪魔の本拠地ということだろうな」
「ええ。この館も見た目通りとは限りません」

 どんな罠が仕掛けられているのか……そもそもこの世界のものですらないのなら、いつぞやのディフェット王の悪夢に入り込んだ時のように、こちらの常識も通じない空間かもしれない。
 緊張感が走る中、ミューがちらりと仲間を見遣る。

『けど、いよいよってコトなのよね。特にシグルスやサニーにとっては』
「!」

 シグルスは変身を得意とする仮面の悪魔イルシーとの、サニーは黒薔薇を名乗る魅了の悪魔テプティとの因縁がある。
 一度は退けることに成功したが、人を人とも思わないようなあの悪魔たちを放っておけば、どんな犠牲が出るかわかったものではないだろう。
 館の近くに降り立つと、一行を誘うかのようにひとりでにゆっくりと扉が開く。
 こちらの来訪などお見通しということだろうか――シグルスたちは息を呑み、顔を見合わせた。

「……行くぞ。ここで決着をつける」
「おーけー。こてんぱんにしてやるんだから!」
「皆さん、気を引き締めましょう!」

 ここで怯んでなどいられない。彼らの表情に緊張感はあれど、恐怖に負けて足が止まるようなことはなく。

「さて、どんな歓迎をしてくれるんだろうな?」

 館の扉はシグルスたちを内部へと招き入れると、獲物の退路を断つように再び固く閉ざされた。
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