59:邪執の果てに
「良かった……ホントに良かったぁ」
「エル……」
緊張の糸が切れ、子供のように泣きじゃくるプリエールの顔を己の胸に埋め、震える彼女の背をそっと擦るアルバトロス。
痩身の魔法学者は癖毛の前髪に隠れがちな垂れた三白眼の下に隈が目立つ、ともすれば悪人面ともとられてしまいそうな人相をしているが、ケイオスに乗っ取られていた時と違い、優しさや品の良さが窺える。
「アルバ、大丈夫? どこもケガとかしてない!?」
「私はなんともないが……それを言うなら君たちこそボロボロだろう。まったく、無茶をして……」
と、このまま小言が始まってしまいそうだったが、アルバトロスは一旦留まると咳払いをひとつした。
「……いや、今は言うまい。お陰で助かった」
「いろいろ積もる話はあるのだけど、一度マギカルーンへ帰りましょう」
「それならケイオスの知識から盗んだ転移魔法がある。数人程度、ここから地上までくらいなら一瞬で移動できる」
そういえば、初めてケイオスに遭遇した時――アルバトロスは体を奪われかけながらも、自分を脱出させてくれたことがあるとプリエールは思い出した。
あの時も遺跡の中にいたのに、気づけば外に出ていて……メイル神殿の地下や霊峰の頂上に現れ、またすぐに姿を消してしまったケイオスの神出鬼没さも、この転移魔法あってのものだったのだろう。
「それなら先にこの上の階に行ってからよ。ルーチェさんが待ってるわ」
「ルーチェ? 確かその名は……」
プリエールはアルバトロスに、人形に魂を移されたルーチェのこと、動力と連動している自爆装置を止めたため今は動けないでいることを説明した。
「……ああ、わかった。そのボディなら私が直せるだろう。そうしたら彼女も連れて、地上まで転移しよう」
「助かるよ。ありがとう、アルバトロス」
モーアンが告げた感謝はルーチェと、ルクシアルで待つ彼女の父ルーメンや婚約者ノクスの分もこめて。
「なんだか、何でもできる人になっちゃったわねぇ」
「正直、不本意だがな」
えっ、と思わぬ発言に声が漏れるプリエール。
アルバトロスは少しだけ不機嫌そうに、そして照れ臭そうに、
「君とは純粋に知識で競い合いたかったのに、これではまるでズルをしたみたいだ」
「アルバ……」
「いかんな。こういうつまらない対抗心があの男につけ入られる隙になってしまったんだろう」
と、最後の方はそっぽを向いて、そんなことを言うのだった。
そんなふたりをやや遠巻きに見守っていたモーアンとフォンドは、互いに顔を見合わせて笑う。
「なんか、いいよねぇ……」
「そうだなぁ。やっぱいいよなぁ、ライバルって」
ふたりにも互いに切磋琢磨する相手がいる。それぞれを思い浮かべ、今頃何をしているだろうかと目元を緩ませて。
「ライバルで、友達で、対等な相手で……きっと、魔法技術はもっと発展していくよ」
優れた知識を以て他を排除するのではなく、持ち寄った知識をあわせて高めあっていく。
彼らの知識は、より良い未来に活かされていくのだろう。そんな光景が見えた気がして、モーアンはふっと微笑んだ。
「エル……」
緊張の糸が切れ、子供のように泣きじゃくるプリエールの顔を己の胸に埋め、震える彼女の背をそっと擦るアルバトロス。
痩身の魔法学者は癖毛の前髪に隠れがちな垂れた三白眼の下に隈が目立つ、ともすれば悪人面ともとられてしまいそうな人相をしているが、ケイオスに乗っ取られていた時と違い、優しさや品の良さが窺える。
「アルバ、大丈夫? どこもケガとかしてない!?」
「私はなんともないが……それを言うなら君たちこそボロボロだろう。まったく、無茶をして……」
と、このまま小言が始まってしまいそうだったが、アルバトロスは一旦留まると咳払いをひとつした。
「……いや、今は言うまい。お陰で助かった」
「いろいろ積もる話はあるのだけど、一度マギカルーンへ帰りましょう」
「それならケイオスの知識から盗んだ転移魔法がある。数人程度、ここから地上までくらいなら一瞬で移動できる」
そういえば、初めてケイオスに遭遇した時――アルバトロスは体を奪われかけながらも、自分を脱出させてくれたことがあるとプリエールは思い出した。
あの時も遺跡の中にいたのに、気づけば外に出ていて……メイル神殿の地下や霊峰の頂上に現れ、またすぐに姿を消してしまったケイオスの神出鬼没さも、この転移魔法あってのものだったのだろう。
「それなら先にこの上の階に行ってからよ。ルーチェさんが待ってるわ」
「ルーチェ? 確かその名は……」
プリエールはアルバトロスに、人形に魂を移されたルーチェのこと、動力と連動している自爆装置を止めたため今は動けないでいることを説明した。
「……ああ、わかった。そのボディなら私が直せるだろう。そうしたら彼女も連れて、地上まで転移しよう」
「助かるよ。ありがとう、アルバトロス」
モーアンが告げた感謝はルーチェと、ルクシアルで待つ彼女の父ルーメンや婚約者ノクスの分もこめて。
「なんだか、何でもできる人になっちゃったわねぇ」
「正直、不本意だがな」
えっ、と思わぬ発言に声が漏れるプリエール。
アルバトロスは少しだけ不機嫌そうに、そして照れ臭そうに、
「君とは純粋に知識で競い合いたかったのに、これではまるでズルをしたみたいだ」
「アルバ……」
「いかんな。こういうつまらない対抗心があの男につけ入られる隙になってしまったんだろう」
と、最後の方はそっぽを向いて、そんなことを言うのだった。
そんなふたりをやや遠巻きに見守っていたモーアンとフォンドは、互いに顔を見合わせて笑う。
「なんか、いいよねぇ……」
「そうだなぁ。やっぱいいよなぁ、ライバルって」
ふたりにも互いに切磋琢磨する相手がいる。それぞれを思い浮かべ、今頃何をしているだろうかと目元を緩ませて。
「ライバルで、友達で、対等な相手で……きっと、魔法技術はもっと発展していくよ」
優れた知識を以て他を排除するのではなく、持ち寄った知識をあわせて高めあっていく。
彼らの知識は、より良い未来に活かされていくのだろう。そんな光景が見えた気がして、モーアンはふっと微笑んだ。
