59:邪執の果てに
〈もはや全てが遅いのだ! さあ、隕石よ! 地上に裁きを!〉
消えかかりながらも己の勝利を確信したケイオスの声が響き渡る。
大魔法の発動と、魔導機神の自爆。そのどちらも目前としながら、どこにも逃げ場がない。
せめて防御だけでも――プリエールが慌てて地の防御壁を作り出そうとした、その時だった。
激しい光の明滅と繰り返し鳴り響いていた音がぴたりと止まり、しんと静まり返る。
「え……?」
〈な、なんだ? 何が起きた!?〉
どうやらケイオス自身も想定外のことらしく、狼狽が隠せない様子だ。
そんなケイオスのちっぽけな魂の上に、ふっと影が落ちた。
「どうやら間に合ったようだな、エル。君たちがこいつの注意を引いてくれて、助かった」
「アルバっ!」
ケイオスを見下ろすのは、意識を失っていたはずのアルバトロス。プリエールの友人の魔法学者だった。
振り向けば先程まで彼が倒れていた場所には、戦いの前に張った防御壁が残るのみ。これを隠れ蓑に、こっそり移動していたようだ。
〈だとしても、大魔法と魔導機神の自爆を止めるなど……〉
「貴様はどうやって大魔法の術式と魔導機神を造り上げた? 貴様が乗っ取っていた、この私の肉体を使ってだろう」
アルバトロスが言わんとしていることを察してか、ケイオスに焦りが表れる。
「お陰で構造もよくわかった。作り方がわかれば、壊すことも……」
〈や、やめろっ!〉
「不可能ではないっ!」
パァン、と音がして、魔法陣が完全に砕け散った。
同時に、限界を迎えたケイオスの魂もサラサラと霧散していく。
〈我が悲願が……こんな、下等の人間ども、に……〉
「……そうやってお前はずっと、他者を認めなかった。見下し、排除し、モノみたいに扱って利用した結果だよ」
「あなたには確かに才能があったわ、ケイオス。対等に認め合える、高め合える相手がいれば、何かが違っていたかもしれないわね」
プリエールはそう言いながら、友人や仲間たちへ視線を移す。
万に一つ、何かを一歩間違えれば自分だってケイオスのようになっていた可能性がないわけではない、と。
〈認め、ぬ……認めてなど、やるものかぁぁぁ……!〉
断末魔の叫びを残し、今度こそ“禁呪の魔法士”と呼ばれた男の魂は跡形もなく消え去る。
千年もの間、人間を、女神を、世界を恨み続けた男の、これが最期の言葉だった。
「お、終わっ、たぁ……」
「もうダメかと思ったぜ……」
脱力するモーアンとフォンド。死力を尽くした戦いに、絶体絶命の危機に……立て続けのことで、さすがに消耗が激しかったのだろう。
「アルバ……ホントに、アルバなのね……!」
「エル……すまない。世話をかけたな」
ああ、ようやく、今度こそ。
あたたかみのある黄色の目が潤み、そこから涙がこぼれる間もなく、プリエールはアルバトロスに駆け寄って飛びついた。
消えかかりながらも己の勝利を確信したケイオスの声が響き渡る。
大魔法の発動と、魔導機神の自爆。そのどちらも目前としながら、どこにも逃げ場がない。
せめて防御だけでも――プリエールが慌てて地の防御壁を作り出そうとした、その時だった。
激しい光の明滅と繰り返し鳴り響いていた音がぴたりと止まり、しんと静まり返る。
「え……?」
〈な、なんだ? 何が起きた!?〉
どうやらケイオス自身も想定外のことらしく、狼狽が隠せない様子だ。
そんなケイオスのちっぽけな魂の上に、ふっと影が落ちた。
「どうやら間に合ったようだな、エル。君たちがこいつの注意を引いてくれて、助かった」
「アルバっ!」
ケイオスを見下ろすのは、意識を失っていたはずのアルバトロス。プリエールの友人の魔法学者だった。
振り向けば先程まで彼が倒れていた場所には、戦いの前に張った防御壁が残るのみ。これを隠れ蓑に、こっそり移動していたようだ。
〈だとしても、大魔法と魔導機神の自爆を止めるなど……〉
「貴様はどうやって大魔法の術式と魔導機神を造り上げた? 貴様が乗っ取っていた、この私の肉体を使ってだろう」
アルバトロスが言わんとしていることを察してか、ケイオスに焦りが表れる。
「お陰で構造もよくわかった。作り方がわかれば、壊すことも……」
〈や、やめろっ!〉
「不可能ではないっ!」
パァン、と音がして、魔法陣が完全に砕け散った。
同時に、限界を迎えたケイオスの魂もサラサラと霧散していく。
〈我が悲願が……こんな、下等の人間ども、に……〉
「……そうやってお前はずっと、他者を認めなかった。見下し、排除し、モノみたいに扱って利用した結果だよ」
「あなたには確かに才能があったわ、ケイオス。対等に認め合える、高め合える相手がいれば、何かが違っていたかもしれないわね」
プリエールはそう言いながら、友人や仲間たちへ視線を移す。
万に一つ、何かを一歩間違えれば自分だってケイオスのようになっていた可能性がないわけではない、と。
〈認め、ぬ……認めてなど、やるものかぁぁぁ……!〉
断末魔の叫びを残し、今度こそ“禁呪の魔法士”と呼ばれた男の魂は跡形もなく消え去る。
千年もの間、人間を、女神を、世界を恨み続けた男の、これが最期の言葉だった。
「お、終わっ、たぁ……」
「もうダメかと思ったぜ……」
脱力するモーアンとフォンド。死力を尽くした戦いに、絶体絶命の危機に……立て続けのことで、さすがに消耗が激しかったのだろう。
「アルバ……ホントに、アルバなのね……!」
「エル……すまない。世話をかけたな」
ああ、ようやく、今度こそ。
あたたかみのある黄色の目が潤み、そこから涙がこぼれる間もなく、プリエールはアルバトロスに駆け寄って飛びついた。
