59:邪執の果てに

 世界中に隕石を降らせ、壊滅的なダメージを与えるという禁じられた大魔法の発動を前に、いよいよ始まったケイオスとの直接対決。
 これまで乗っ取っていたアルバトロスの体を捨て、その魂が乗り移った先は自らが造り上げた機械仕掛けの巨人、魔導機神デウス・エクス・マキナだった。

『皆、気をつけるんじゃぞ。禁術の発動まであまり猶予がない』
『嫌な魔力が渦巻いてやがるな……』

 精霊たちが口々にそう言うだけあって、不穏な気配はプリエールたちにもうっすらとだが感じ取れた。

〈術は既に七、八割ほど出来上がりつつある。足元をよく見てみろ〉
「これは……魔法陣!?」

 と、部屋の広さと魔導機神に気を取られていたが、床には部屋いっぱいに奇妙な紋様が描かれていたことに気づく。
 薄紫色に輝く紋様からはドクンドクンと不気味に何かが脈打つような音が聴こえ、それに合わせて明滅し始めた。

「よくわかんねえけど、なんかヤバそうだぜ……!」
「バリアに気をつけて速攻撃破よ!」
「む、無茶言うなあ……」

 そんなやりとりをしながらも旅の中で強敵との戦いを重ねてきた一行の動きには迷いがなく、魔導機神に向かって駆け出すフォンドの後ろでプリエールが青い魔力を集めだした。
 そんな彼女の傍らに、水精霊アクリアが姿を現す。

『そう。今のバリアは“火”だ。だから正解は……』
「巻き起これ氷結の嵐……凍えなさいっ!」

 空気中に無数の氷の粒を生み出す激しい冷気が、赤い光の膜を突き破って魔導機神に叩きつけられる。
 バリアが割れると同時にビシッと音がして、六枚の翼のうち二枚に亀裂が走り、粉々に砕け散った。

「やった!」
「バリアを破壊された反動に、翼が耐えられなかったんだわ!」
〈ちっ、少し完成を急ぎ過ぎたか。だが、あまり調子に乗るなよ!〉

 ケイオスはそう言い放ち、魔導機神の大きく広げた両手と頭上に光球を生み出す。
 それぞれが激しく波打つ光の線で結ばれ、三角形ができたかと思うと、その中央にまた別の光が集まっていく。

「まずい、止めなきゃ……!」
〈遅いわ! くらえ!〉

 中央の光が弾け、激しい閃光が無数の刃となってプリエールたちに襲いかかった。

「うわっ!?」
「きゃあぁ!」

 フォンドは堪えたもののがくりと膝をつき、プリエールは吹っ飛ばされ倒れ伏す。唯一無事だったのは、直前に反射魔法を唱えていたモーアンのみ。
 並の人間ならそのまま死んでいてもおかしくない威力だが、留まらせたのは装備と本人の魔法抵抗力によるものだろう。

「みんなっ!」
「うぅ……だ、大丈夫だ。だから頼むぜ、モーアンさん!」

 ふらつきながら立ち上がったフォンドは、振り向かずに強大な敵へと立ち向かう。
 紺桔梗の瞳は背後の仲間を信じ、真っ直ぐ前だけを見据えていた。
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