58:機械仕掛けの神
人形の動力が切れて動けなくなったルーチェを残し、さらに先へと進んでいくモーアンたち。
長い長い、いかにもな階段を降りていくと、冷ややかな空気が流れ込んできた。
「これ、帰りは上っていくんだよね……?」
「しんどいならオレが担いでいくぜ、モーアンさん」
「さ、さすがに僕も体力ついてきたからいけるけど……」
うんざりするほど続く階段の、これまで来た距離を見上げながら、それはそれこれはこれだとモーアンは眉根を寄せる。
「あら、大丈夫よ。横の壁に細長い溝があるでしょ?」
「溝?」
「家主もわざわざ一歩一歩上っていくのは嫌みたいよ」
プリエールが示した通り、階段横の壁には手すりを想定するにはやや高めの位置に、上から下までずっと続く溝があった。
そして階段の終わりまで来てみると、溝の最下部には握りやすそうな、サイドにボタンがふたつついた棒がささっていた。
「なんだこれ?」
「たぶんこれを握ってボタンを押すとこの溝に沿って上までばびゅーんと運んでくれる的な仕掛けっぽいわね」
「ふーん、この階段限定の“帰還のカギ縄”みたいなもんか」
使用者の足取りを記憶し、入口まで送ってくれる魔法アイテム“帰還のカギ縄”は移動方法が少しばかり荒々しいが、長旅で何度も重宝するものだった。
「まあ、帰る時のことは後で考えましょ」
「そうだね。まずはケイオスを倒して、禁術の発動を止めないと!」
仰々しい扉を前に、三人は決意を固める。
扉越しに漏れ出る嫌な空気。おそらくこの先にケイオスがいるのだろう。
フォンドが扉を押すと、それは重々しい音を響かせながらゆっくりと開いた。
「ようこそ、我が城へ。メイル神殿の地下洞窟以来だな」
「!」
中の様子がほとんど確認できないほどの暗い部屋にぼうっと浮かび上がるのはプリエールがよく知る友人、アルバトロスの姿。しかしそれは彼の体を器とした、醜悪な魔法士の口調と表情で話した。
「聖獣を味方につけ、生き延びたか……ふん、地上を這い回る虫けらはやはりしぶとい」
「あら、しぶといって言うならそっちのことじゃない? 千年前に封印されて、他人の体を乗っ取ってまで復活して」
興味の対象を見ればすぐに輝き、くるくるとよく表情を変えるプリエールの蒲公英色の瞳は、今は冷たく冴えた光を宿して。
その奥には友人を奪われた怒りが静かに燃え盛っていた。
「ああ、この肉体か。なかなか優秀な魔法の才能があるが、所詮は脆い、ヒトの枠を出ぬモノ。もう用済みだ」
「なんですって……?」
一触即発の空気の中、突如足元が揺れ、プリエールたちの意識が逸れる。
直後、ケイオスが――アルバトロスの体が、がくりと膝をついた。
「必要なら返してやる。回収でも何でも好きにするがいい。ここから生きて帰れればの話だがな……!」
そう言い残して、まるで糸の切れた人形のようにその場に倒れる。
「アルバ!」
駆け寄るプリエールとは対照的に、黒い靄を纏った火の玉がアルバトロスから離れていく。
彼の体を操っていたケイオスの魂が抜け出ていったのだろうか。けれども何のために――そう思う間もなく、それは奥の暗闇へと融けて……
〈ククク……見せてやろう。究極の肉体を得た我が力を!〉
そんな声が響いたかと思えば、辺りが急に明るく照らされ、巨人の姿があらわになった。
長い長い、いかにもな階段を降りていくと、冷ややかな空気が流れ込んできた。
「これ、帰りは上っていくんだよね……?」
「しんどいならオレが担いでいくぜ、モーアンさん」
「さ、さすがに僕も体力ついてきたからいけるけど……」
うんざりするほど続く階段の、これまで来た距離を見上げながら、それはそれこれはこれだとモーアンは眉根を寄せる。
「あら、大丈夫よ。横の壁に細長い溝があるでしょ?」
「溝?」
「家主もわざわざ一歩一歩上っていくのは嫌みたいよ」
プリエールが示した通り、階段横の壁には手すりを想定するにはやや高めの位置に、上から下までずっと続く溝があった。
そして階段の終わりまで来てみると、溝の最下部には握りやすそうな、サイドにボタンがふたつついた棒がささっていた。
「なんだこれ?」
「たぶんこれを握ってボタンを押すとこの溝に沿って上までばびゅーんと運んでくれる的な仕掛けっぽいわね」
「ふーん、この階段限定の“帰還のカギ縄”みたいなもんか」
使用者の足取りを記憶し、入口まで送ってくれる魔法アイテム“帰還のカギ縄”は移動方法が少しばかり荒々しいが、長旅で何度も重宝するものだった。
「まあ、帰る時のことは後で考えましょ」
「そうだね。まずはケイオスを倒して、禁術の発動を止めないと!」
仰々しい扉を前に、三人は決意を固める。
扉越しに漏れ出る嫌な空気。おそらくこの先にケイオスがいるのだろう。
フォンドが扉を押すと、それは重々しい音を響かせながらゆっくりと開いた。
「ようこそ、我が城へ。メイル神殿の地下洞窟以来だな」
「!」
中の様子がほとんど確認できないほどの暗い部屋にぼうっと浮かび上がるのはプリエールがよく知る友人、アルバトロスの姿。しかしそれは彼の体を器とした、醜悪な魔法士の口調と表情で話した。
「聖獣を味方につけ、生き延びたか……ふん、地上を這い回る虫けらはやはりしぶとい」
「あら、しぶといって言うならそっちのことじゃない? 千年前に封印されて、他人の体を乗っ取ってまで復活して」
興味の対象を見ればすぐに輝き、くるくるとよく表情を変えるプリエールの蒲公英色の瞳は、今は冷たく冴えた光を宿して。
その奥には友人を奪われた怒りが静かに燃え盛っていた。
「ああ、この肉体か。なかなか優秀な魔法の才能があるが、所詮は脆い、ヒトの枠を出ぬモノ。もう用済みだ」
「なんですって……?」
一触即発の空気の中、突如足元が揺れ、プリエールたちの意識が逸れる。
直後、ケイオスが――アルバトロスの体が、がくりと膝をついた。
「必要なら返してやる。回収でも何でも好きにするがいい。ここから生きて帰れればの話だがな……!」
そう言い残して、まるで糸の切れた人形のようにその場に倒れる。
「アルバ!」
駆け寄るプリエールとは対照的に、黒い靄を纏った火の玉がアルバトロスから離れていく。
彼の体を操っていたケイオスの魂が抜け出ていったのだろうか。けれども何のために――そう思う間もなく、それは奥の暗闇へと融けて……
〈ククク……見せてやろう。究極の肉体を得た我が力を!〉
そんな声が響いたかと思えば、辺りが急に明るく照らされ、巨人の姿があらわになった。
