58:機械仕掛けの神

 一年前に死んだと思われたノクスの婚約者・ルーチェの魂はケイオスに囚われ、自動人形のパーツにされていた。
 彼女の意識が戻り、言葉を交わせたのも束の間。人形に仕掛けられていた自爆装置が作動し、無慈悲なカウントダウンを始めたが……

「頼む、クレーシェっ!」
〈!〉

 爆発は起きなかった。
 小部屋を満たしたのは、まばゆくも優しい月の光。
 逃げることも止めることも叶わないかと思われた刹那、モーアンが月精霊の力を借り、人形の時を止めたのだ。

『ふむ、災禍から学んだか。上出来じゃ』

 つい先日戦った月の災禍は対象の時間を一時的に停止させる術を使ってきた。
 月精霊の力は時を司る。それならば、クレーシェの力を借りれば同様のことができるのではと踏んだのだ。

「あまり長くは保たないけどね……プリエール、今のうちに!」
「わかったわ!」

 今度はプリエールが人形のもとに駆け寄り、上から下まであちこち調べていく。
 背中にスライド式の小さな扉を見つけると、彼女はそれを躊躇なく開いた。

「わ、わかりそうか?」
「たぶんね……悔しいけど、ケイオスの頭脳はホンモノみたい。大した技術だわ」

 プリエールはそう言いながら中で強い光を放つ球体と、そこに繋がる無数の管に触れながら、その周辺を慎重に探る。

「ここに魔力が送り込まれてどんどん圧縮されているみたい。最後にはパンクして爆発する仕掛けね。動力も兼ねているから、ここを切ると動かなくなっちゃうけど……」

 プチン、と管を切る。時が止まったままなので正解かどうかすぐにはわからないが、うまくいっていることを祈るしかないだろう。

「それからケイオスからの指令を受け取れないようにして……」
「プリエール、そろそろ……!」
「これと、ここと、はい、おしまい!」

 手早く処置をして勢い良く背中の扉を閉めると同時に、クレーシェの術が解ける。
 プリエールの退避は間に合わなかったが、あれだけうるさかった音も光もピタリと止まり、しばしの静寂が訪れた。

〈え、え……? 自爆装置が止まって……〉
「ルーチェ……!」

 ボディである人形と一緒に時間が止まっていたルーチェは何が起きたかわからず、自爆装置と連動していた動力が切れたせいでその場に脱力して座り込む。
 だがそれきり、爆発が起きる気配はなかった。

「やったぜ、プリエールさんっ!」
「きゃあ! あたしってばすっごーい!」

 フォンドとプリエールが思わずハイタッチをしてはしゃぐ中、モーアンがルーチェに状況を説明する。

「……というわけなんだ」
〈そうだったの……私、もう自由なのね〉
「うん。今は体は動かないだろうけど」
〈大丈夫よ。あなた達があの男を倒して、また戻ってくるでしょ? ここで待っているわ〉

 ここに来るまでに襲ってきた自動人形は全て倒し、残るはさらに地下にいるというケイオスのみ。
 ルーチェの物言いは、モーアンたちがケイオスを倒してくると疑いもしないようだった。

〈強くなったわね、モーアン〉
「仲間がいるおかげでね」

 今は表情のない人形を器としているが、きっと彼女は昔見た時と変わらない、穏やかな微笑みを浮かべているのだろう。
 そんなルーチェにモーアンもまた、にっこりと笑い返すのだった。
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