57:哀しき人形

 ――モーアンの幼馴染であるルクシアルの神官、ノクス。
 彼がある日突然豹変してルクシアルを去った背景には、一年前に死んだ婚約者・ルーチェのことがあった。

「なぁ、すごいぞ。ルーチェが、ルーチェが生き返るかもしれねぇんだ!」

 喪われた生命を蘇らせる魔法なんてものは、たとえ存在していたとしても世の理を外れる術法。まして、優秀な神官であるノクスならば誰よりもそれをわかっているはずだった。
 後になってこの時の言動は禁呪の魔法士ケイオスを欺くための芝居だったと判明するが、もし本当にルーチェを蘇らせることができるのなら……

 ある日突然、呆気なく喪われた大切なひとが戻ってくるのなら……――。


「きみは……ルーチェ、なのかい……?」
「えっ!?」

 モーアンたちの前に現れ、襲いかかってきた自動人形がそのルーチェなのではないか。
 おそるおそるといった呼びかけに、仲間たちはモーアンと人形を交互に見た。

「ノクスはルーチェの魂を盾にとられていた、と言っていた。だから魂だけの状態でどこかに囚われているのかと思ったんだけど……」
〈ええ、そう。私はあの日、体から魂を抜き取られてあの男に囚われた。特殊な籠に入れられて、事あるごとにノクスに見せつけるように……あの男はそうして彼を従わせたの〉

 先程までの抑揚のない調子ではなく、はっきりと人間が喋るように人形……ルーチェはそう言った。

〈私の魂はこの人形に適合……動かすためのパーツになるらしくて、それで採ってきたと言っていたわ〉
「人の命を材料扱いってこと!?」
「どこまでもひでぇ奴だな……」

 婚約者と共に歩む未来を奪われ、冷たい人形の一部にされて。彼女の怒りと絶望は計り知れないだろう。

〈我が研究の一部となれること、永遠の命を得られたことを喜べ、なんて言っていたけど……〉
「そんなの一方的で自分勝手よ。そもそも他人を巻き込んで犠牲にするなんて、研究者の風上にもおけないわ!」

 ダンッ、と辺りに響く靴音。プリエールの拳がわなわなと震えていた。

「ケイオスがいるのはこの先ね。すぐにでも引っ叩きにっ……」

 しかし彼女の激情は、突如割り込んできたビーッビーッという不快な音に遮られた。
 妙に心がざわつき、まるで何かを強く警告するような音は、ルーチェの魂を封じ込めた人形の胸部から聴こえている。

「なんだ、この音!?」
〈いけない、離れて! この人形には自爆装置が組み込まれているの。きっとあの男があなたたちの侵入に気づいたんだわ!〉

 思わず離れるフォンドとは逆に、ルーチェに駆け寄るモーアンとプリエール。
 人形の胸部にある宝玉が点滅を繰り返し、それは音と共に間隔が短くなっていく。

〈さよなら、モーアン……ノクスに、よろしくね……〉
「ルーチェっ!」

 次第に全身が輝き始めたルーチェにモーアンが右手を伸ばした瞬間、彼らがいる小部屋は光で満たされた。
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