57:哀しき人形
フォンドたちの前に現れた人形は全てが硬質な金属で形成されながらもどことなく女性的な容姿で、腰周りにぐるりと拡がるパーツはドレスのようでもあった。
「あの男が造ったにしては綺麗な見た目だけど……」
〈侵入者ヲ確認。排除シマス〉
「うわわ!?」
「おっと」
淡々とした声音とは裏腹にスカート部分を展開、激しく回転させながら突撃してくる人形の頭を踏んでひらりと躱したフォンドは、着地から続けざまに攻撃を仕掛ける。
「ちょーっとこっち向いててくれよなっ!」
〈!〉
剛拳の一撃を喰らった人形の上体が大きく傾ぐが、すぐにぬるりと起き上がった。
ダメージを感じさせない動きはやはり、ヒトや魔物、生物のものとは違う。
間髪入れず振り回してきた人形の腕がフォンドの胸元を掠り、衣服がざっくりと裂けてしまう。
「うぉっ」
「フォンド!」
「っ、大丈夫! しっかり引きつけとくから、二人は魔法よろしく頼むぜ!」
モーアンとプリエールには魔法の詠唱に集中していてほしい。
ほんの少しだけ痛む胸を押さえ、得意の継続回復魔法を唱えると、小さな傷はゆっくりと癒えた。
(浅い……けど、そもそも喰らうつもりがなかった。間合いに気をつけなきゃな)
刃物を携えた人形の腕は人間のそれとは仕組みが異なり、思わぬ方向に伸びたり曲がったりする。
なまじ人間に似た姿形をしてはいるが、以前戦った地の災禍やこれまで倒した自動人形と本質的には同じものだろう。
(ここでこいつをオレ一人で抑えるのか……エイミやシグルスの補助魔法が恋しい、なんて言えねえよなあ)
こんな弱音を吐いたら、エイミはともかくシグルスに何を言われるかわかったものではない。
代わりに懐から、手のひらに乗るほどの小さな布袋を取り出した。
「いくぜ!」
袋の中身を己の拳に振りかける。薄緑色のさらさらした粉末が触れると、拳が雷を帯びた。
この粉はいわゆる魔法アイテムと呼ばれる特殊な道具で、特定の素材を組み合わせることで魔法と同等に近い効果が得られるものだ。
人によって扱える魔法の種類がある程度限られているこの世界では、特に攻撃魔法の効果があるアイテムが護身用に人気である。
ちなみに、世に出ている魔法アイテムの結構な割合が“魔法都市の高嶺の花”と呼ばれる魔法士によって生み出されたとかなんとか。
そんな魔法アイテムは、フォンドたちの旅の間にも密かに種類を増やしていた。
「どうだっ!」
〈――!〉
バゴォンと激しい音を立ててフォンドの拳が人形の腹部に炸裂する。
拳もろとも叩きつけられた雷が人形の全身を這い、その華奢な体躯が激しく痙攣し、がくりと膝をつく。
〈ウ……ア……〉
「効いてる! そのままトドメいくよ!」
〈……その、声は……〉
これまでとは違う調子。微かな声で人形が呟く。
〈モー、アン……モーアン、なの……?〉
「……え?」
瞬間、全員の動きがピタリと止まる。
綺麗で優しげな、聞き覚えのある女性の声。そして自分を知る者といえば――ある可能性に思い当たったモーアンは「まさか」と青ざめていた。
「あの男が造ったにしては綺麗な見た目だけど……」
〈侵入者ヲ確認。排除シマス〉
「うわわ!?」
「おっと」
淡々とした声音とは裏腹にスカート部分を展開、激しく回転させながら突撃してくる人形の頭を踏んでひらりと躱したフォンドは、着地から続けざまに攻撃を仕掛ける。
「ちょーっとこっち向いててくれよなっ!」
〈!〉
剛拳の一撃を喰らった人形の上体が大きく傾ぐが、すぐにぬるりと起き上がった。
ダメージを感じさせない動きはやはり、ヒトや魔物、生物のものとは違う。
間髪入れず振り回してきた人形の腕がフォンドの胸元を掠り、衣服がざっくりと裂けてしまう。
「うぉっ」
「フォンド!」
「っ、大丈夫! しっかり引きつけとくから、二人は魔法よろしく頼むぜ!」
モーアンとプリエールには魔法の詠唱に集中していてほしい。
ほんの少しだけ痛む胸を押さえ、得意の継続回復魔法を唱えると、小さな傷はゆっくりと癒えた。
(浅い……けど、そもそも喰らうつもりがなかった。間合いに気をつけなきゃな)
刃物を携えた人形の腕は人間のそれとは仕組みが異なり、思わぬ方向に伸びたり曲がったりする。
なまじ人間に似た姿形をしてはいるが、以前戦った地の災禍やこれまで倒した自動人形と本質的には同じものだろう。
(ここでこいつをオレ一人で抑えるのか……エイミやシグルスの補助魔法が恋しい、なんて言えねえよなあ)
こんな弱音を吐いたら、エイミはともかくシグルスに何を言われるかわかったものではない。
代わりに懐から、手のひらに乗るほどの小さな布袋を取り出した。
「いくぜ!」
袋の中身を己の拳に振りかける。薄緑色のさらさらした粉末が触れると、拳が雷を帯びた。
この粉はいわゆる魔法アイテムと呼ばれる特殊な道具で、特定の素材を組み合わせることで魔法と同等に近い効果が得られるものだ。
人によって扱える魔法の種類がある程度限られているこの世界では、特に攻撃魔法の効果があるアイテムが護身用に人気である。
ちなみに、世に出ている魔法アイテムの結構な割合が“魔法都市の高嶺の花”と呼ばれる魔法士によって生み出されたとかなんとか。
そんな魔法アイテムは、フォンドたちの旅の間にも密かに種類を増やしていた。
「どうだっ!」
〈――!〉
バゴォンと激しい音を立ててフォンドの拳が人形の腹部に炸裂する。
拳もろとも叩きつけられた雷が人形の全身を這い、その華奢な体躯が激しく痙攣し、がくりと膝をつく。
〈ウ……ア……〉
「効いてる! そのままトドメいくよ!」
〈……その、声は……〉
これまでとは違う調子。微かな声で人形が呟く。
〈モー、アン……モーアン、なの……?〉
「……え?」
瞬間、全員の動きがピタリと止まる。
綺麗で優しげな、聞き覚えのある女性の声。そして自分を知る者といえば――ある可能性に思い当たったモーアンは「まさか」と青ざめていた。
