56:時を操る獣

 災禍を倒したエイミたちはもう少しセレネ島に残るというシルヴァンに別れを告げ、海岸まで足を向かわせた。
 風が海の香りを運び、足音がさくさくと砂を踏むものに変わる。
 常夜の島から出れば夕方らしく、島から遠くの空には夜闇に橙のグラデーションがかかっていた。

『これで災禍を八体すべて倒した……やりきったのね、私たち』
「封印から無理矢理叩き起こしたところをだけど、それでもすごいことよね」

 プリエールの言葉選びは時々ものすごく身も蓋もないな、とモーアンが苦笑する。
 何はともあれ、今まさに世界に迫っていた驚異のひとつを撃破したのは喜ばしいことだと言えるだろう。

「ほっといたら災禍が復活しちゃう。今一番切羽詰まってたことだもんね」
「残るは魔族と悪魔、それに禁呪の魔法士……そろそろ敵の親玉を叩きたいところだ。それでなんだけど、さ」

 少し言いにくそうに切り出したモーアンが、意を決して仲間たちを見つめる。

「みんな……話があるんだ」
「話?」

 フォンドが聞き返すと、彼は頷き、言葉を続ける。

「少し前にルクシアルに寄っただろう? あそこでノクスに禁呪の魔法士……ケイオスについて何か知らないか尋ねたんだ。彼はケイオスのもとにいたからね」
「そうしたら、彼の拠点について聞き出せたわけ。あたしたちはこれからそこに行きたいの」

 そう続けたのはプリエール。友人を奪われた彼女もケイオスとは因縁浅からぬ間柄だ。
 と、そこに、サニーがおずおずと手を挙げた。

「あのー、それならアタシも……ほら、こないだ霊廟で聞いた、悪魔の足取りについてさ」
「町から搾取したり幽霊船を作り上げたり、ろくなことをしない連中だ。あまり放ってはおけないだろうな」

 災禍には解けかけた封印という明確なタイムリミットがあったため優先順位を引き上げられていたが、彼らが旅を始めたきっかけで最終的な目標は因縁の敵を倒すこと。

「どちらもすぐに倒しに行きたいところですが……」
「いっそ手分けして同時に行っちまうとか?」

 悩むエイミに提案するフォンド。戦力が分散してしまうが、禁呪の魔法士も悪魔たちもいつまでもおとなしくしてはいないだろう。

「ちょっと心配だけど、少人数のほうが動きやすいかもね」
「それじゃあ決まりかな? 僕とプリエールはケイオスのところに、シグルスとサニーは悪魔たちを追うってことで」
「エイミとフォンドはどうするの?」

 仲間たちに問われ、ふたりは顔を見合わせる。現時点でガルディオの動きは掴めていない。それならば……

「ガルディオの情報がない今はそちらを優先しましょう。わたしとフォンドもそれぞれの行き先につきます」
「そしたら戦力を考えて……って、どっちでも大丈夫そうかな?」

 どちらも前衛であるふたりの役割は近い。強いて言えばフォンドは壁役としての能力が高く、エイミは援護や撹乱が得意といえるだろう。

「じゃあオレ、モーアンさんとプリエールさんの方に行くよ」
「わかりました。それならわたしはシグルスとサニーに同行しますね」
「エイミ、よろしくー!」

 こうしてメンバーの割り振りを決めたエイミたちは、別々の目的地に向かうことになった。
 人間でありながら禁じられた魔法を操り、女神を憎む禁呪の魔法士と、人々の心を惑わし、苦しめて糧を得ようとする悪魔。
 翼の聖獣フリュエラはエイミたちを乗せて、決戦の地へと羽ばたくのだった。
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