56:時を操る獣

 最後の災禍は本来の復活からより近い時期だったこともあり、今までに戦ったどの敵よりも強かった。
 純粋なパワーやタフネスだけではなく、太い腕を振り回し、鋭い爪からは周囲を切り裂く衝撃波を飛ばし、簡単には近寄らせない強敵で。
 目立った弱点がないぶん、活躍したのはエイミの強化やサニーの弱体化魔法。
 どうにか後衛を死守してそれらの支援を受けた前衛で地道にダメージを与えつつ、ガードが堅いときはプリエールの魔法、こちらがダメージを受ければモーアンが回復……互いの死力を尽くした総力戦は長時間続く。
 その頃には災禍も、エイミたちがただの“獲物”ではないと感じ取ったのだろう。より鋭く目つきが変わり、攻撃に変化があらわれた。
 災禍がぐいっと体を反らし、両腕を顔の前でクロスさせる。今までになかった動きに、全員の緊張が高まった。

「! 気をつけて、何か変よ!」

 その腕の前に、月と同じ色をした光球が出現する。光は収縮を繰り返しながら徐々に大きくなり、災禍の遠吠えと共に弾けた。

「みんな、逃げ――」
「うわっ!」
「きゃあ!?」

 降り注ぐ光の雨。モーアンの発した言葉はそこまでで、光を浴びた彼はぴたりと静止してしまう。
 攻撃が止み、エイミが周囲を見回すと、プリエールとフォンドも同様に止まっていた。
 身じろぎも、まばたきすらもない完全なる“停止”――それだけではない。微風になびく髪、振り向いた時に翻った衣服までも、まるで動作の途中の瞬間を切り取られたようで……

「こ、これは……」
『時を止められたのじゃ。今の光の雨は月の魔力を凝縮したもの……僅かの間じゃが、此奴らは無防備ぞ』
「ウソでしょ!?」

 一瞬で三人が無力化されてしまった動揺で、サニーの声が上擦る。
 こんなところを狙われてしまえば、いくら彼らでも無事では済まない。案の定、災禍は動きを止めたメンバーに狙いを定めた。

「大変っ……ミュー!」
『わかったわ!』

 最初に狙われたフォンドの前に、ミューが冷気のブレスで氷壁を作り出す。
 急拵えの盾は災禍の一撃を受け止めると砕け散り、その役目を終えた。
 ちょうどそこで止まっていた仲間たちの時間が再び動き出すと……

「うおお、なんだぁ!?」

 フォンドからしてみれば光の雨が降ってきたと思った次の瞬間、突然目の前に現れた氷塊がすぐさま砕けて崩れ落ちたのだ。
 自分自身がこの氷塊のように粉々にされてたかもしれないなどとわからなかったのも、無理もない話だろう。

『アンタ、私に感謝しなさいよっ!』
「えっ……どういうことだよ?」
「もしかしてあたしたち、時間を止められてたんじゃないかしら?」

 遠い過去から現代まで、これだけ対象の時間を操れるのなら、停止できてもおかしくない。
 敵味方の配置含め、一瞬にしてはあまりにも事態が変わりすぎているこの状況で、プリエールは自力で答えに辿り着いた。

「やってくれるじゃない。もうアレは撃たせないわよ!」
「撃たせないように頑張るのは俺たちなんだが……」

 もしまたあの術を使われて、全員同時に止められたら一気に全滅しかねない。
 気の抜けたやりとりをしながらも、彼らの意識は災禍の動きに向けられるのだった。
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