56:時を操る獣
千年ほど前に魔族によって滅ぼされ、廃墟と化していたエスペラ・ムールの町や人々が、時を司る月の魔力によって在りし日の姿に戻っていた。
それは月の災禍の復活が迫っていた影響で起きた異変という名の奇跡で、同時にひとたび災禍が蘇れば儚く壊されてしまうものでもあった。
人間と魔族が心を通わせ、共存する美しくも優しい町。そこで暮らす人々も、エイミたちをあたたかく受け入れてくれた。それなのに……
「わざわざ蘇らせてもう一度命を奪うなんて、むごいことを……」
一度喪われた命を呼び戻す――不老不死の類などと同じく、それは魔法でも不可能な夢物語であるとされていた。
もしそんな方法があるとすれば、人の道を外れた外法だ、とも。
神官であるモーアンには特にそのことが身に沁みているし、ましてやそうして復活させた命を弄ぶさまを目の当たりにすれば、その憤りもひとしおだろう。
こちらをただの獲物としか見ていないようなニヤついた顔の災禍を、彼は普段の穏やかさから想像もつかないほどの眼力で見上げた。
「こちらも情け容赦はいらないね」
いつもより低く、静かに放たれたモーアンの言葉にフォンドが一瞬驚くが、すぐに拳を構え直す。
「当然。全力でぶっ倒すぜ!」
フォンドの全身が継続回復魔法の白い光を帯びる。
見るからにパワーの強そうな相手には、壁となって後方の安全を確保せねば。そのために、まず己の耐久力を高めたのだ。
そうして彼が災禍に突っ込んでいる間に、強化や付与での準備を整えるのだが、今回はシグルスもフォンドに加勢した。
「クレーシェが言うには、月の災禍には目立った弱点属性がないそうだ」
地水火風に光と闇。これらの属性には大体の場合で相反する属性が有効だが、月と木にはそれに当たるものがなく、彼の得意とする魔法剣はあまり意味を成さないと思われる。
「なるほどな。んじゃ、二人で掻き乱しますか!」
「ふん」
と、そこにエイミの補助魔法が彼らを包む。
二人はほんの一瞬笑みを交わすと、同時に左右に分かれて災禍を攻撃し始めた。
「すっごく強そうで怖いけど……みんなでやればなんとかなるっ!」
サニーが揺らめく黒い気を集め、災禍に向かって放つ。
黒霧が全身に纏わりつくと、フォンドたちを追い払おうとした災禍の腕ががくんと下がった。
「あの魔法は……」
「霊廟で災禍にやられたやつだよ。短い間だけど、パワーもスピードも防御も一気に弱体化できるんだ!」
やられっぱなしじゃいられないからね、とサニー。
状況を理解した前衛が、この機を逃すものかと一斉に災禍に突撃した。
それは月の災禍の復活が迫っていた影響で起きた異変という名の奇跡で、同時にひとたび災禍が蘇れば儚く壊されてしまうものでもあった。
人間と魔族が心を通わせ、共存する美しくも優しい町。そこで暮らす人々も、エイミたちをあたたかく受け入れてくれた。それなのに……
「わざわざ蘇らせてもう一度命を奪うなんて、むごいことを……」
一度喪われた命を呼び戻す――不老不死の類などと同じく、それは魔法でも不可能な夢物語であるとされていた。
もしそんな方法があるとすれば、人の道を外れた外法だ、とも。
神官であるモーアンには特にそのことが身に沁みているし、ましてやそうして復活させた命を弄ぶさまを目の当たりにすれば、その憤りもひとしおだろう。
こちらをただの獲物としか見ていないようなニヤついた顔の災禍を、彼は普段の穏やかさから想像もつかないほどの眼力で見上げた。
「こちらも情け容赦はいらないね」
いつもより低く、静かに放たれたモーアンの言葉にフォンドが一瞬驚くが、すぐに拳を構え直す。
「当然。全力でぶっ倒すぜ!」
フォンドの全身が継続回復魔法の白い光を帯びる。
見るからにパワーの強そうな相手には、壁となって後方の安全を確保せねば。そのために、まず己の耐久力を高めたのだ。
そうして彼が災禍に突っ込んでいる間に、強化や付与での準備を整えるのだが、今回はシグルスもフォンドに加勢した。
「クレーシェが言うには、月の災禍には目立った弱点属性がないそうだ」
地水火風に光と闇。これらの属性には大体の場合で相反する属性が有効だが、月と木にはそれに当たるものがなく、彼の得意とする魔法剣はあまり意味を成さないと思われる。
「なるほどな。んじゃ、二人で掻き乱しますか!」
「ふん」
と、そこにエイミの補助魔法が彼らを包む。
二人はほんの一瞬笑みを交わすと、同時に左右に分かれて災禍を攻撃し始めた。
「すっごく強そうで怖いけど……みんなでやればなんとかなるっ!」
サニーが揺らめく黒い気を集め、災禍に向かって放つ。
黒霧が全身に纏わりつくと、フォンドたちを追い払おうとした災禍の腕ががくんと下がった。
「あの魔法は……」
「霊廟で災禍にやられたやつだよ。短い間だけど、パワーもスピードも防御も一気に弱体化できるんだ!」
やられっぱなしじゃいられないからね、とサニー。
状況を理解した前衛が、この機を逃すものかと一斉に災禍に突撃した。
