55:まぼろしの都
常夜の孤島、セレネ。
ここには滅ぼされて久しい廃墟がただあるだけ……そのはずだった。
だがエイミたちの前に現れたのは、穏やかだが楽しげな声があちらこちらから聴こえてくる、明るい雰囲気の街並みで……
「ここは、一体……」
建物などを見ると、先程までいた廃墟にあったものとよく似ている。
だが触れれば脆く崩れ去りそうだった遠い過去のそれとは違い、今、ここに在る町のものだ。
何よりあちこちで見かける住民らしき人々は人間もいれば魔族らしき種族もいて、それぞれが当たり前のように仲良く暮らしている。
『これってまるで、さっき聞いた話そのものじゃない!?』
「じゃあ、ここは……」
などとざわつく一行を視界の端に留めた住人のひとりが、まっすぐにこちらに向かって来た。
「おや、旅の方ですか? もしかして人間と魔族が一緒にいるの見て、びっくりしちゃいました?」
背中に翼を生やした青年はにこやかで人懐っこく、澄んだ瞳をそっと細めて笑いかける。
きっと彼も魔族だろうに、エイミたちを見ても全く動じる様子がない。
「ようこそ。ここは人と魔族が暮らす町……共存の都エスペラ・ムールです」
「エスペラ・ムール……?」
青年が手を振りながら去っていくと、現代では聞いたこともないその名を反芻し、状況を整理する。
月の力は“時”を司る。以前にもクレーシェの力でジャーマの体に入り込んだ呪いの時を戻して解呪したり、破壊された女神像を元に戻したりした。
恐らくここは千年ほど前、セレネ島に実際にあったあの廃墟の本来の姿……破壊される前の町なのだろう。
「時間が過去に戻ったってこと?」
「そんな大規模なことができる力はさすがにないと思うよ。たぶん、幻なんじゃないかな」
「さっきの兄ちゃんとはフツーに喋れたし、みんなアタシたちのこと認識してるみたいだよ?」
うーん、と腕組みをし、頭を捻る一行。
物に触れれば感触や温度があり、住民と言葉まで交わせるなんて、幻というにはあまりにも現実味がありすぎる。
(この町が、魔族に破壊されてしまうというの? さっきの優しそうなお兄さんも、穏やかに過ごしているこの人たちも……人間だけでなく、魔族もいるというのに)
そこまで考えてから、ふとエイミは以前聞かされたシルヴァンの話を思い出す。
宿敵であるガルディオは穏健派だった父を排除し、弟のシルヴァンを臆病者だと罵った。それならば人間と魔族が共存するこの町の存在も許せなかったのだろう、と。
『……ねえ、少しこの町を見て回らない? 何か情報が得られるかもしれないわ』
「賛成だよ、ミュー。いろいろ気になることがあるしね」
「一応、災禍の影響下ってことも忘れないようにな」
考え込むエイミの頬にミューが自分の頭を軽く当てて、この場からの移動を促す。
一行はそれぞれ散り散りになって、町中の散策を始めるのだった。
ここには滅ぼされて久しい廃墟がただあるだけ……そのはずだった。
だがエイミたちの前に現れたのは、穏やかだが楽しげな声があちらこちらから聴こえてくる、明るい雰囲気の街並みで……
「ここは、一体……」
建物などを見ると、先程までいた廃墟にあったものとよく似ている。
だが触れれば脆く崩れ去りそうだった遠い過去のそれとは違い、今、ここに在る町のものだ。
何よりあちこちで見かける住民らしき人々は人間もいれば魔族らしき種族もいて、それぞれが当たり前のように仲良く暮らしている。
『これってまるで、さっき聞いた話そのものじゃない!?』
「じゃあ、ここは……」
などとざわつく一行を視界の端に留めた住人のひとりが、まっすぐにこちらに向かって来た。
「おや、旅の方ですか? もしかして人間と魔族が一緒にいるの見て、びっくりしちゃいました?」
背中に翼を生やした青年はにこやかで人懐っこく、澄んだ瞳をそっと細めて笑いかける。
きっと彼も魔族だろうに、エイミたちを見ても全く動じる様子がない。
「ようこそ。ここは人と魔族が暮らす町……共存の都エスペラ・ムールです」
「エスペラ・ムール……?」
青年が手を振りながら去っていくと、現代では聞いたこともないその名を反芻し、状況を整理する。
月の力は“時”を司る。以前にもクレーシェの力でジャーマの体に入り込んだ呪いの時を戻して解呪したり、破壊された女神像を元に戻したりした。
恐らくここは千年ほど前、セレネ島に実際にあったあの廃墟の本来の姿……破壊される前の町なのだろう。
「時間が過去に戻ったってこと?」
「そんな大規模なことができる力はさすがにないと思うよ。たぶん、幻なんじゃないかな」
「さっきの兄ちゃんとはフツーに喋れたし、みんなアタシたちのこと認識してるみたいだよ?」
うーん、と腕組みをし、頭を捻る一行。
物に触れれば感触や温度があり、住民と言葉まで交わせるなんて、幻というにはあまりにも現実味がありすぎる。
(この町が、魔族に破壊されてしまうというの? さっきの優しそうなお兄さんも、穏やかに過ごしているこの人たちも……人間だけでなく、魔族もいるというのに)
そこまで考えてから、ふとエイミは以前聞かされたシルヴァンの話を思い出す。
宿敵であるガルディオは穏健派だった父を排除し、弟のシルヴァンを臆病者だと罵った。それならば人間と魔族が共存するこの町の存在も許せなかったのだろう、と。
『……ねえ、少しこの町を見て回らない? 何か情報が得られるかもしれないわ』
「賛成だよ、ミュー。いろいろ気になることがあるしね」
「一応、災禍の影響下ってことも忘れないようにな」
考え込むエイミの頬にミューが自分の頭を軽く当てて、この場からの移動を促す。
一行はそれぞれ散り散りになって、町中の散策を始めるのだった。
