55:まぼろしの都

 八体目の災禍を倒すべくエイミたちが向かったのは、月精霊クレーシェと契約した小さな島、セレネ。
 陸から離れぽつんと寂しく浮かぶ常夜の孤島には、町があったとおぼしき廃墟くらいしか見当たらなかったと記憶しているが……

「君たちは……」
「シルヴァンさん!」
「どうしてここに?」

 そこでは思わぬ再会が待っていた。
 落ち着いた深い青が基調の衣装は出会った当初のものではなく、周囲に溶け込めるよう旅人風の格好に。
 青みがかった艷やかな黒髪の上から巻かれた、マントと同色のターバンは頭部に生えていたツノの跡を隠すためのもの。
 目尻の下がった柔らかな印象を与える銀の目は、角度によってさまざまな色を見せる。
 そんな特徴的な容姿の美青年は、魔族であり宿敵ガルディオの弟、シルヴァンだ。

「ここは……私の故郷なんだ」
『どういうコト? 故郷って魔界じゃないの?』
『魔族が住む地は魔界以外にもうひとつあったのじゃ』

 エイミの傍らをふよふよと飛びながらシルヴァンを窺うミューの疑問に答えたのは、月精霊クレーシェ。

『共に生きる道を選んだ人間と魔族が辿り着く先……共存の地。それがこのセレネ島よ』
「じゃあ、この廃墟は……」

 セレネ島の廃墟は、魔界の侵略によって滅びた都市の残骸らしい――といってもこんな定期船も通らない、おまけに月の精霊の力で常に夜という小さな島に近寄る者はほとんどいないだろう。
 崩れて風化も激しい建物だった瓦礫にそっと手を触れ、シルヴァンは目を伏せた。

『ひとまず、話はそこまでにせい』
「クレーシェ?」

 と、シルヴァンの話を遮り、月精霊は辺りを見回した。

『気づいておらぬか? 今宵は月の光が強く輝き、振り注いでおる』

 この地、セレネに夜をもたらしているのは、頭上に輝く月――本物のそれではなく、クレーシェの力の結晶だ。
 今はその月が煌々と、夜とは思えぬ光を放っている。

「クレーシェの力じゃないの?」
『否、わらわではなく災禍の影響じゃ』

 クレーシェがそう言うと、周囲の景色がゆらぎ、歪み始めた。
 月の光は更に強く、妖しく、エイミたちを包み込む。

「な、なに!?」
『月の力は“時”を司る……何かが起こるぞ、気をつけい』

 そんな声を遠くに聴きながら、彼らの意識は次第に満ちる光の中へと融けていく。

(何か見える……あれは……?)

 視界が一度まばゆい月光に塗り潰された後、うっすらと見え始めた景色は、先程までのそれと明らかに違っていた。
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