54:冷たき霊廟にて
若者たちが霊廟の奥に消えて、どのくらい経っただろうか。
ある時から己を縛っていた黒い靄のようなものが消え、追いたてるように湧き上がる破壊的な衝動も憎しみも感じなくなり……
ほどなくして聴こえてきた複数の足音から全てを察したかつての王は安堵に表情を緩めた。
『彼らは、無事にやってくれたのだな……』
この王が生きた時代でも伝説の存在だった災禍を、現代を生きる若者たちが倒したのだ。
王は彼らを出迎え、その顔をひとりひとりじっと見つめた。
『皆、よくやってくれた。この通り我々も正気を取り戻したよ』
「ああ、よかった……」
エイミがほっと胸を撫で下ろす。先程の戦闘で受けたダメージも、モーアンのお陰ですっかり回復したようだ。
『もうじき災禍の影響が消えて、我らの姿や声も多くの人々には認識できなくなるだろう』
目の前で当たり前のように話しているのは、本来なら出会うこともない死者だ。
その出会いをもたらしたのが倒すべき災禍だというのは、なんとも皮肉な話だろう。
「それは……なんだか寂しいですね」
『いやいや、君たちはコクヨウの契約者だろう? ここに来ればいつでも話せるよ』
「そうなんですか?」
しゅんと萎んでいたエイミが途端に嬉しそうに目を輝かせ、仲間たちを振り返る。
皆彼女と同じように笑顔だが、ただひとり、フォンドだけが青ざめ、頬をぴくぴくと引き攣らせて。
「…………フォンド?」
「お前、さっきは平気そうにしてたのに……」
「うっうるせえ! やっぱ怖えもんは怖ぇんだよ! は、話せると、ちょっとは怖くねぇ、けど……」
いつもの威勢の良さはどこへやら、ごにょごにょ消え入るフォンドの語尾に王がふっと目を細める。
『それは良かった。最後にひとつ良いだろうか』
「え?」
『最近、死者の魂を船に集めた“幽霊船”なるものが出現していたのは……コクヨウの契約者なら知っているか』
はい、と頷く一行。
コクヨウの本来の住処がここなら、王は彼の一時期の不在を知っていて、幽霊船の話も聞いているのだろう。
『今、悪魔たちが怪しい動きを見せている。この近辺の死者の魂が捕われ、連れ去られているのだ。恐らくは他の場所でも……』
「悪魔が……?」
『悔しいが、私には何の力もない……こうして情報を伝えることが精一杯でな』
実体をもたない魂だけの存在では、悪魔に対抗することはできない。
それどころか、悪霊に変えられていいように操られてしまう可能性すらあるのだ。
「ううん、王様。おかげで悪魔の足取りがわかったんだから、アタシたちにはでっかい収穫だよ!」
『そうか……そう言ってくれると救われる』
ふるふると首を振ってそう言うサニーに、王は子や孫を慈しむように微笑んだ。
「災禍を倒したら行かなければならない場所ができましたね」
「ああ。そのためにも、残り一体の災禍を倒しにいくぞ!」
エイミとフォンドが互いに見合わせ、ぐっと拳を握り締める。
八体いた災禍も、いよいよ最後の一体を残すのみ。
新たに得た情報を受けて、一行は再度決意を固めるのであった。
ある時から己を縛っていた黒い靄のようなものが消え、追いたてるように湧き上がる破壊的な衝動も憎しみも感じなくなり……
ほどなくして聴こえてきた複数の足音から全てを察したかつての王は安堵に表情を緩めた。
『彼らは、無事にやってくれたのだな……』
この王が生きた時代でも伝説の存在だった災禍を、現代を生きる若者たちが倒したのだ。
王は彼らを出迎え、その顔をひとりひとりじっと見つめた。
『皆、よくやってくれた。この通り我々も正気を取り戻したよ』
「ああ、よかった……」
エイミがほっと胸を撫で下ろす。先程の戦闘で受けたダメージも、モーアンのお陰ですっかり回復したようだ。
『もうじき災禍の影響が消えて、我らの姿や声も多くの人々には認識できなくなるだろう』
目の前で当たり前のように話しているのは、本来なら出会うこともない死者だ。
その出会いをもたらしたのが倒すべき災禍だというのは、なんとも皮肉な話だろう。
「それは……なんだか寂しいですね」
『いやいや、君たちはコクヨウの契約者だろう? ここに来ればいつでも話せるよ』
「そうなんですか?」
しゅんと萎んでいたエイミが途端に嬉しそうに目を輝かせ、仲間たちを振り返る。
皆彼女と同じように笑顔だが、ただひとり、フォンドだけが青ざめ、頬をぴくぴくと引き攣らせて。
「…………フォンド?」
「お前、さっきは平気そうにしてたのに……」
「うっうるせえ! やっぱ怖えもんは怖ぇんだよ! は、話せると、ちょっとは怖くねぇ、けど……」
いつもの威勢の良さはどこへやら、ごにょごにょ消え入るフォンドの語尾に王がふっと目を細める。
『それは良かった。最後にひとつ良いだろうか』
「え?」
『最近、死者の魂を船に集めた“幽霊船”なるものが出現していたのは……コクヨウの契約者なら知っているか』
はい、と頷く一行。
コクヨウの本来の住処がここなら、王は彼の一時期の不在を知っていて、幽霊船の話も聞いているのだろう。
『今、悪魔たちが怪しい動きを見せている。この近辺の死者の魂が捕われ、連れ去られているのだ。恐らくは他の場所でも……』
「悪魔が……?」
『悔しいが、私には何の力もない……こうして情報を伝えることが精一杯でな』
実体をもたない魂だけの存在では、悪魔に対抗することはできない。
それどころか、悪霊に変えられていいように操られてしまう可能性すらあるのだ。
「ううん、王様。おかげで悪魔の足取りがわかったんだから、アタシたちにはでっかい収穫だよ!」
『そうか……そう言ってくれると救われる』
ふるふると首を振ってそう言うサニーに、王は子や孫を慈しむように微笑んだ。
「災禍を倒したら行かなければならない場所ができましたね」
「ああ。そのためにも、残り一体の災禍を倒しにいくぞ!」
エイミとフォンドが互いに見合わせ、ぐっと拳を握り締める。
八体いた災禍も、いよいよ最後の一体を残すのみ。
新たに得た情報を受けて、一行は再度決意を固めるのであった。
