54:冷たき霊廟にて
悪魔イルシーの策略に嵌められたとはいえ、一時は反逆者として似顔絵を貼り出されていたシグルスだったが、今はディフェットの救世主一行のひとり。
彼らの来訪に近ごろの異変との関連を察したのか謁見から霊廟への立ち入り許可までもスムーズで、かつての扱いを思うと拍子抜けさえおぼえるほどだな、と隠す必要のなくなった赤い目を伏せた。
そうしてやって来た霊廟は薄暗く静まり返っており、ひやりとした空気が一行の頬を撫でるように通り過ぎた。
「うひゃっ、さむっ」
『うむ、心安らぐ心地良い空気だ』
闇精霊コクヨウが出てくるなり、心なしか活き活きした様子で廟内を漂う。
出会った場所は幽霊船だったが、彼の本来の住処はこちらなのだ。
「コクヨウ、災禍の封印がどこにあるかわかる?」
『人の手届かぬさらなる深淵……封じられし闇はそこに眠る』
「だいたい奥の方ってことね。わかったわ」
プリエールのざっくりした要約に言葉を失ったコクヨウをよそに、一行は霊廟の奥へと進む。
道の両側にはズラリと並ぶ棺。暗くてよく見えないが、ひとつひとつに見事な細工が施されているようだ。
「改めて、余所者がズカズカ入っていい場所じゃあないよね……なるべく騒がないようにしないと」
「お、おじゃまします……!」
神官であるモーアンが身を正すと静かに祈りを捧げ、エイミもぺこりと頭を下げる。
すると……
『おやおや、ずいぶん可愛らしいお客さんが来たね』
と、この中の誰でもない男性の声が響く。
「い、今の声は……」
「オオオオバケぇ!?」
『ははは。言ってしまえばその通りだな』
普段は勇ましく雄々しいフォンドが誰よりも乙女な悲鳴をあげ、瞬時に仲間の後ろに隠れた。
『いやすまん。驚かすつもりはなかったのだが……まさか私の声が聴こえてしまうとは、これも災禍の影響か?』
「災禍の……?」
よく見れば声どころか、半透明だが姿まで見える。王らしい豪奢な身なりをしているが、品の良い男性がそこにいた。
ここに眠る歴代の王のうちの誰かだろうか、とモーアンが周囲を見回す。
『どうも、この霊廟を中心に我々の姿や声が認識しやすくなっているらしくてな。先ほども外で通りすがりの旅人を驚かせてしまったと聞いたよ』
『ふむ……その程度のことで済めば良いが、災禍にあてられて悪影響がないとも限らんな』
そう言うコクヨウに、王の霊はスッと右手を挙げた。
『それなんだが、あまり時間がないかもしれない……こういう考えに至ったことはなかったのに、君たち生者に対して妬ましさや憎しみがふつふつと湧きつつあるんだ』
「それって……」
『災禍の影響、だろうな……このままいけば周囲の死者たちが悪霊と化し、人々を襲うかもしれん。やがては世界中が……うぐっ』
エイミたちがはっと顔を見合わせる。ディフェットをはじめ各地の国や町の周辺では、十三年前の“災禍の怒り”で多くの人々が命を落としている。
もし、その魂が災禍の影響で憎悪に染まることになれば……
苦しみだす王の前に、シグルスが膝をつき、見上げる。
「王よ、今しばらくの辛抱です。災禍は必ず我々の手で」
『……頼もしい若者だ。待っているぞ、赤き瞳の騎士よ……勇敢なる若者たちよ』
王は気丈に微笑んで見せるが、その周囲に黒い靄が纏わりつき、彼の理性を奪い始めている。
こうしてはいられない。一行は災禍が眠るという奥へと早足で歩きだした。
彼らの来訪に近ごろの異変との関連を察したのか謁見から霊廟への立ち入り許可までもスムーズで、かつての扱いを思うと拍子抜けさえおぼえるほどだな、と隠す必要のなくなった赤い目を伏せた。
そうしてやって来た霊廟は薄暗く静まり返っており、ひやりとした空気が一行の頬を撫でるように通り過ぎた。
「うひゃっ、さむっ」
『うむ、心安らぐ心地良い空気だ』
闇精霊コクヨウが出てくるなり、心なしか活き活きした様子で廟内を漂う。
出会った場所は幽霊船だったが、彼の本来の住処はこちらなのだ。
「コクヨウ、災禍の封印がどこにあるかわかる?」
『人の手届かぬさらなる深淵……封じられし闇はそこに眠る』
「だいたい奥の方ってことね。わかったわ」
プリエールのざっくりした要約に言葉を失ったコクヨウをよそに、一行は霊廟の奥へと進む。
道の両側にはズラリと並ぶ棺。暗くてよく見えないが、ひとつひとつに見事な細工が施されているようだ。
「改めて、余所者がズカズカ入っていい場所じゃあないよね……なるべく騒がないようにしないと」
「お、おじゃまします……!」
神官であるモーアンが身を正すと静かに祈りを捧げ、エイミもぺこりと頭を下げる。
すると……
『おやおや、ずいぶん可愛らしいお客さんが来たね』
と、この中の誰でもない男性の声が響く。
「い、今の声は……」
「オオオオバケぇ!?」
『ははは。言ってしまえばその通りだな』
普段は勇ましく雄々しいフォンドが誰よりも乙女な悲鳴をあげ、瞬時に仲間の後ろに隠れた。
『いやすまん。驚かすつもりはなかったのだが……まさか私の声が聴こえてしまうとは、これも災禍の影響か?』
「災禍の……?」
よく見れば声どころか、半透明だが姿まで見える。王らしい豪奢な身なりをしているが、品の良い男性がそこにいた。
ここに眠る歴代の王のうちの誰かだろうか、とモーアンが周囲を見回す。
『どうも、この霊廟を中心に我々の姿や声が認識しやすくなっているらしくてな。先ほども外で通りすがりの旅人を驚かせてしまったと聞いたよ』
『ふむ……その程度のことで済めば良いが、災禍にあてられて悪影響がないとも限らんな』
そう言うコクヨウに、王の霊はスッと右手を挙げた。
『それなんだが、あまり時間がないかもしれない……こういう考えに至ったことはなかったのに、君たち生者に対して妬ましさや憎しみがふつふつと湧きつつあるんだ』
「それって……」
『災禍の影響、だろうな……このままいけば周囲の死者たちが悪霊と化し、人々を襲うかもしれん。やがては世界中が……うぐっ』
エイミたちがはっと顔を見合わせる。ディフェットをはじめ各地の国や町の周辺では、十三年前の“災禍の怒り”で多くの人々が命を落としている。
もし、その魂が災禍の影響で憎悪に染まることになれば……
苦しみだす王の前に、シグルスが膝をつき、見上げる。
「王よ、今しばらくの辛抱です。災禍は必ず我々の手で」
『……頼もしい若者だ。待っているぞ、赤き瞳の騎士よ……勇敢なる若者たちよ』
王は気丈に微笑んで見せるが、その周囲に黒い靄が纏わりつき、彼の理性を奪い始めている。
こうしてはいられない。一行は災禍が眠るという奥へと早足で歩きだした。
