53:病撒き散らすもの

 ラクトの加護が切れてしまう時間との勝負ということもあり、災禍との決着は苦戦しながらも短期のものとなった。
 背中に乗っているものへの狙いがつけにくいのか、雷や風を操る災禍の攻撃は威力こそ高いものの、意識していればきちんと避けられるもので。
 時折避けようがない広範囲の嵐が襲ってきたりもしたが、最後はシグルスの魔法で地属性を付与されたフォンドの拳とプリエールの魔法がきっちりととどめを刺し……
 そこまでは、よかった。

「やった! 災禍が消滅するよ!」
「ついに……って、まって?」

 断末魔をあげる災禍の体が端から黒い靄となり、その形を失っていく。
 足元が大きく揺らいだその瞬間、モーアンをはじめ、仲間たちの脳裏に嫌な予感がよぎった。

「僕たちは今災禍の上に立っているわけで、その災禍が消えるってことは……」
「えっ」
『す、すまない、時間切れだ……』
「ええっ!?」

 災禍が消えると一瞬の浮遊感ののちに宙に投げ出される五人。

「うわああああああ!」
「ウソぉぉぉぉぉっ!?」
「みんな!」

 もともと飛んでいたエイミとミューだけはそのままだが、彼女たちも突然のことには反応しきれず、助けようにも時すでに遅く。
 間に合ったとしても救助できるのはせいぜい二人が精一杯だろうこの状況で、それでもどうにか落ちていく仲間に追いつこうと速度を上げるが……

「きゃっ!?」
《やれやれ、ボクがいることを忘れてないかい?》

 エイミを含めた仲間たちの体が白い光の玉に包まれ、ふわりと落下が止まる。
 どうやら翼の聖獣フリュエラのしわざらしく、光の玉はエイミたちを彼の背中まで運ぶと役目を終えて消えた。

「こ、今度ばかりは死ぬかと思ったぜ……」
「さすがのあたしたちもこんな上空から落ちたらひとたまりもないものねぇ」

 プリエールがそう言うのも無理はない。
 ドラゴニカの城を頂くノール・エペの山ですら、今は遥か下に見えるのだから。

《そうだと思って災禍と戦っている間もずっと見守っていたよ。万が一誰かが落ちてしまったらこうやって助けるつもりでね》

 戦いには参加していないが、フリュエラもサポートに回ってくれていたのだ。
 そうと知っていればもっと安心感をもって戦えたというのに……全員の体からどっと力が抜ける。

「もっと早く言ってほしかったよぉ……」
《華麗なるヒーローは遅れてやって来るものさ! さぁさぁ感謝したまえ!》
「それ、言わなきゃいいのに……」

 ようやく災禍を倒した実感が湧き、安堵に少しずつ緩んでいく空気。
 エイミたちの窮地を救う活躍をしたことに満足げなフリュエラがゆっくりと高度を下げていく中で、

「あら?」
『どうしたの、エイミ?』
「今、なんだか……」

 風の流れに逆らって、災禍だった黒い靄が何処かへと……まるで吸い込まれていくように漂うのを視界の端に捉えるエイミ。

(気のせい、かしら……?)

 確かめようにも残滓は遠ざかり、彼方へと儚く散っていく。
 蒼穹の瞳にそんな光景を映したのも束の間、エイミたちを乗せた聖獣は休息のため町へ向かって降りていくのだった。
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