53:病撒き散らすもの

 災禍の背中はフリュエラの数倍広く、足場としては充分過ぎるものだった。
 猛スピードで飛んでいるにもかかわらず安定して立つどころか走り回ったりジャンプしたりもできるのは、風精霊の加護のおかげだろう。

『すごいわね……空を飛んでても置いていかれることもないなんて。まるで災禍が止まってるみたい』
「ええ、不思議ね……お陰でいつも通り戦える。いくわよ、ミュー!」

 変身したミューに飛び乗ったエイミはいつものように空中から自在に災禍を攻める。
 残りのメンバーもそれぞれ散り、翼や頭などを攻撃し始めた。

『まだ瘴気の風を生み出せるほど力が戻っていないようだな』
「倒すなら今、ってことだね。背中に乗られたらやりにくいだろうし、大チャンスじゃん!」

 などと言いながら短剣を構えるサニーの頭上が一瞬光ったかと思えば、彼女めがけてぴしゃりと落ちる雷。

「うひゃ!?」
「そう簡単にはいかないみたいだぞ。それに振り落とされたら終わりだからな」

 そんなやりとりをしている間にも、災禍は激しくきりもみ回転しながら飛んで背中に乗っている者たちを落とそうとする。
 さすがのサニーたちも体勢を崩し、尋常でないモーアンの悲鳴が響き渡るが、それでも彼らの足はまるで災禍の背を地面と認識しているかのようにぴったりとついていた。

「ひえぇ!」
「い……今のはさすがに怖かったわね……」
『加護が続く限りはどんなに災禍が暴れても落ちはしないが……そう長くは保たない。なるべく早めに決着をつけて貰えると助かる』

 風精霊の言葉に真っ青になりながら何度も頷くモーアン。
 本来なら立つことすらままならないだろう事実を改めて突きつけられて、加護のありがたみを思い知る。

「風の災禍の弱点は地属性だろう。みんなそれぞれ攻撃とサポートをおねがい!」
「わかったわ!」

 モーアンは覚えたての反射魔法を、プリエールは土の防御壁を。シグルスは仲間たちの武器に地属性付与の魔法をかけて攻撃を始める。
 怖い怖くない以前に、ラクトの加護が切れてしまえば、災禍が完全に目覚めれば――時間に余裕がないことは確かだ。

「地上に瘴気を振り撒くだなんて……そんなこと、させてたまるかよ!」
「ええ。一気に決めましょう!」

 今は北大陸の周辺を飛び回る“病撒き散らすもの”が、故郷にいつ瘴気の風を送り込むかわかったものではない。
 フォンドの拳が、エイミの槍が。金色の軌跡を描きながら災禍へと叩きつけられた。
3/4ページ
スキ