53:病撒き散らすもの
再び訪れた風詠の谷にはどこか不穏な風が吹いていた。
迷路のような谷に入ってすぐ、誰も訪れないような行き止まりにひっそりと佇む古びた石柱を見つけるが……
「うわっ!?」
『ちょっと、アイツ空にっ……!』
破壊した瞬間、その中に封じられていたモノは空高く飛び上がってしまう。
大地に影を落とした鳥型の災禍はその場をぐるぐる旋回した後、何処かへと去ろうとする。
呆気に取られていたエイミたちだったが、我に返り“つばさのベル”を掲げるまでそう時間はかからなかった。
《どうやらボクの出番のようだね!》
澄んだ音色に呼ばれて飛んできた翼の聖獣フリュエラはすぐに事情を飲み込むと、エイミたちを背中に乗せて災禍を追いかける。
「災禍が町や村まで辿り着いてしまう前に……!」
つい先刻、災禍の恐ろしさを耳にしたばかりのシグルスの声音に焦りが滲む。
羽ばたきで瘴気を生み出し“病撒き散らすもの”と呼ばれる災禍が人家の上空を飛べばどうなるか……惨事は想像に難くない。
「けどさ、追いついても空の上だよ? どうやって倒せば……」
《ボクは荒事は得意じゃないが……風に助けてもらえばいい》
と、一行の前に緑色の光がふわふわと現れ、風の精霊ラクトの姿を形作った。
『しばらくの間、君たちに風の加護を授けよう』
「えっ?」
言うが早いか、ラクトはミューを含むエイミたちの全身に薄い光を纏わせる。
フリュエラの背に乗る時には風圧などの影響を受けることがないように特殊な結界で守られていたのだが、どうやら彼から離れても動けるようにしてくれたらしい。
『これで災禍の背中に飛び移ればいい。激しく動くだろうが、振り落とされることはない』
「えっ、ちょ、ちょっと待って、それって……」
過去にも激しい移動手段の度に悲鳴をあげていたモーアンが状況を察し、青ざめる。
「ここからじゃ魔法も当たらないでしょ。覚悟決めなさい!」
「わたしが抱えて飛びますから大丈夫ですよ」
見た目と異なり、半竜人であるエイミには成人男性のひとりやふたり抱えるぐらい造作もないことだ。
頼もしい笑顔の少女に「そうじゃなくて……」と首を横に振るモーアンだが、その肩を別の何者かが掴む。
「モーアンさんはオレが抱えるからエイミはプリエールさんを頼むぜ!」
「わかりました!」
「ふぉ、フォンド……?」
そのままいわゆるお姫様抱っこの形で抱き上げられたモーアンが思わず悲鳴をあげる。
一刻を争うというのは聡明な彼の頭では理解しているのだが、それはそれ。怖いものは怖い。
「それじゃあ、いくぜぇ!」
「待って、嫌ぁ、や、優しくしてぇーーーー!」
などと大騒ぎするのは、最年長ただひとり。
災禍に近づいたフリュエラがおもむろに体を傾けたのを合図に、エイミたちは一斉にそちらへと飛び移った。
迷路のような谷に入ってすぐ、誰も訪れないような行き止まりにひっそりと佇む古びた石柱を見つけるが……
「うわっ!?」
『ちょっと、アイツ空にっ……!』
破壊した瞬間、その中に封じられていたモノは空高く飛び上がってしまう。
大地に影を落とした鳥型の災禍はその場をぐるぐる旋回した後、何処かへと去ろうとする。
呆気に取られていたエイミたちだったが、我に返り“つばさのベル”を掲げるまでそう時間はかからなかった。
《どうやらボクの出番のようだね!》
澄んだ音色に呼ばれて飛んできた翼の聖獣フリュエラはすぐに事情を飲み込むと、エイミたちを背中に乗せて災禍を追いかける。
「災禍が町や村まで辿り着いてしまう前に……!」
つい先刻、災禍の恐ろしさを耳にしたばかりのシグルスの声音に焦りが滲む。
羽ばたきで瘴気を生み出し“病撒き散らすもの”と呼ばれる災禍が人家の上空を飛べばどうなるか……惨事は想像に難くない。
「けどさ、追いついても空の上だよ? どうやって倒せば……」
《ボクは荒事は得意じゃないが……風に助けてもらえばいい》
と、一行の前に緑色の光がふわふわと現れ、風の精霊ラクトの姿を形作った。
『しばらくの間、君たちに風の加護を授けよう』
「えっ?」
言うが早いか、ラクトはミューを含むエイミたちの全身に薄い光を纏わせる。
フリュエラの背に乗る時には風圧などの影響を受けることがないように特殊な結界で守られていたのだが、どうやら彼から離れても動けるようにしてくれたらしい。
『これで災禍の背中に飛び移ればいい。激しく動くだろうが、振り落とされることはない』
「えっ、ちょ、ちょっと待って、それって……」
過去にも激しい移動手段の度に悲鳴をあげていたモーアンが状況を察し、青ざめる。
「ここからじゃ魔法も当たらないでしょ。覚悟決めなさい!」
「わたしが抱えて飛びますから大丈夫ですよ」
見た目と異なり、半竜人であるエイミには成人男性のひとりやふたり抱えるぐらい造作もないことだ。
頼もしい笑顔の少女に「そうじゃなくて……」と首を横に振るモーアンだが、その肩を別の何者かが掴む。
「モーアンさんはオレが抱えるからエイミはプリエールさんを頼むぜ!」
「わかりました!」
「ふぉ、フォンド……?」
そのままいわゆるお姫様抱っこの形で抱き上げられたモーアンが思わず悲鳴をあげる。
一刻を争うというのは聡明な彼の頭では理解しているのだが、それはそれ。怖いものは怖い。
「それじゃあ、いくぜぇ!」
「待って、嫌ぁ、や、優しくしてぇーーーー!」
などと大騒ぎするのは、最年長ただひとり。
災禍に近づいたフリュエラがおもむろに体を傾けたのを合図に、エイミたちは一斉にそちらへと飛び移った。
