52:二体目の災禍

 問答無用でこちらを敵と見做し、間髪入れずに超威力の攻撃を放つさまは、エイミたちに災禍という存在の恐ろしさを実感させるのに充分で、そこからは大広間いっぱいの巨大一つ目軟体生物との激闘に集中せざるを得なくなった。
 圧倒的な力に苦戦しながらも縦横無尽に襲いかかる触手を避け、反撃でそれらを破壊していくと、本体と分離した触手は溶けて消えていく。

「よし、だいぶ触手が減った。動きやすくなったぜ!」
「ここで一気に決めるっ!」

 攻勢がこちらに傾いたことを確信し、そう言い放ったシグルスが呪文を唱えると、剣の刀身が魔法によって光すら吸い込むような漆黒に変わる。
 闇はすなわち邪悪というわけではない。静けさを内包した黒い刃からは、むしろ優しい波動が感じられた。

(この感覚、心地良さ……もしかしたら闇属性とは相性が良いのかもしれないな)

 そんなことを考えたのも一瞬。彼は身を翻し、跳び上がって壁を蹴ると、そこを足場にさらに高く跳ぶ。

「とどめだッ!」

 叫んだ時には天井ぎりぎり。災禍の頭部の上を取り、くるりと一回転すると、迎撃する間も与えず大きな目玉に剣を突き立てた。
 トン、と軽やかに着地したシグルスの背後で文字にならない叫びをあげ、弾けて消える災禍。どうやら無事に倒せたようだ。

「シグルス兄ちゃん、やったあ!」

 無邪気にぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶサニーの頭をくしゃりと撫で、シグルスが笑いかける。
 仲間たちの体から力が抜けて、その場にへたりこむ者もいた。

『み、みんな、お疲れぇ……』
「こんなのがまだあと六体もいるんだねぇ……」

 杖に縋り肩で息をするモーアンの頭の上に乗っかる、小さな姿に戻ったミュー。
 これで二体の災禍を倒したが、後に控える数を考えるとさらに疲労感が押し寄せてくる。
 そんな中で、エイミは胸に手をあてて目を閉じた。

「……でも、倒せたんですよ。あの伝説とまで言われた災禍が、わたしたちにも」
「エイミ……」

 まだ力が戻りきっていないとはいえ、ぼんやりとおぼろげだった災禍が、この手で倒せる存在になった。
 当然、この先もこううまくいくとは限らない。だがこの体験がエイミたちの背を強く押してくれるものとなるだろう。

「おっしゃ、張り切って次いこうぜ!」
「はい! がんばります!」

 フォンドも彼女に続くと、ふたりで元気よく拳を振り上げる。
 メンバー内で最もタフなコンビは、まだ体力が残っていたようだが……

「盛り上がるのはいいけど……さすがにちょっと休みましょ?」
「さんせーい……アタシたちそんなに体力ないよぉ」
『うむうむ。そのくらいの猶予はあるはずじゃ』

 きちんとした宿屋で休みたい。他の仲間たちの声により、次の目的地を決めるのだった。
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