51:苦き想い出の地

 前回ほとんど荒らされていなかった神殿は外見的にはそれほど変わった様子はないが、霊峰から最も近いここでは“星の庭”への扉が開いたことは知れ渡っていたようだ。
 襲撃から空の異変と続き、ややぴりっと張り詰めた空気が満ちたそこで、エイミたちはノクスの案内で大神官ルーメンがいる聖堂へやって来た。

「星の庭への扉が開かれ、各地で災禍が目覚めようとしている……それを倒すために翼の聖獣の力を借りて飛び回っていると……うーむ」
「頭を抱えたくなるのもわかります。まるで女神様のおとぎ話そのものだ」

 ここまでの経緯を耳にして言葉通り頭を抱えるルーメンに、モーアンがそう言って苦笑する。

「それで、この近くにも災禍が封印されているって聞いたんですけど……」
『そういえば、町の人たちもみんな平気そうね。災禍の影響が出ているのかと思ったわ』

 災禍は復活のために周囲の人間や生き物から気を取り込み、エネルギーを蓄えるという話だ。南大陸の地下坑道でディグ村の人々が力を奪われ、ぐったりしていたのも記憶に新しい。

「ここの結界は先日ノクスや他の神官たちと共に強化したばかりだ。多少はその効果もあるのだろう」
「なるほど……でもいつまで保つかわからない。あまりのんびりはできなさそうだね」

 ルーメンやノクスをはじめとする神官たちにこころなしか疲れが見えるのは、警備や復興のためだけではなさそうだ。
 そして、早々に災禍の影響を受けてしまったディグ村のように、他の町や村はもっと危険な状態に晒されているかもしれない。

「……ごめんなさい。みんなはちょっと先に行ってて」

 少し考え込んだのち、意を決してプリエールが口を開く。

「どうかしたのかい?」
「少しだけ、用事があるの。すぐに追いつくから大丈夫よ」

 年少組が心配そうに窺うが、シグルスが「洞窟の入口で待ってるぞ」と出ていくと慌ててそれに続く。
 ただ、モーアンだけがその場から動かずにいた。

「あら、行かないの?」
「僕もノクスに用があって……禁呪の魔法士、ケイオスのことで」

 ぴく、と笑顔だったプリエールの頬が僅かに反応し、次いで小さな溜息が吐き出された。

「……なぁんだ、もしかして似たような用事かしら?」

 プリエールとモーアンはどちらもケイオスが起こした事件がきっかけで旅に出た、浅からぬ因縁をもつ者同士だ。
 彼女の問いかけに「そうかもね」と頷き、モーアンはノクスに向き直る。

「ノクス。きみはしばらくあの男の傍にいただろう。何かわかったことはないかい?」
「わかったこと?」
「例えば……ケイオスがあの男以外の“誰か”のように振る舞ったりとか」

 それは、プリエールが彼に尋ねようとしていたこととほぼ同じ内容だった。
 禁呪の魔法士ケイオス――千年前の人間である彼が今、この世界で活動している姿。その肉体は、プリエールの友人アルバトロスから奪ったものだから。
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