51:苦き想い出の地
ルクシアルの街並みは襲撃を受けた時からあまり変わらず、復興にはまだまだ時間がかかりそうだが、それでも外を出歩く者の姿はあった。
代わりに神官や騎士がそこかしこに立って見回りをして、彼らの安全を守っているようだ。
その中に、ひとりエイミたちも見知った顔を見つけ、駆け寄る。
「ノクスさん!」
「ノクス!」
短く跳ねた金茶の髪に鋭い菫色の目。モーアンよりしっかりした体格の青年神官は、自分を呼ぶ声に気づくと振り向き、破顔した。
「モーアン、戻ってきたんだな。星の庭へは……」
「行けたよ。レレニティア様ともお話しできた。そのことで話があるんだけど、その前に……」
モーアンの……いや、仲間たちの視線は、ほぼ一点に注がれていた。
ノクスの頬は赤く腫れており、男前が台無しに。けれども彼の表情は、以前より幾分か晴れやかになって。
「その顔、まさかルーメン様に?」
「ああ。思いっきりグーでな。これだけの騒動を引き起こしたんだから、足りないぐらいだけど……いてて」
少しだけ喋りにくそうなノクスだが、優秀な回復魔法の使い手である彼が敢えて治していないのは、けじめのためもあるのだろう。
「グーって……あの落ち着いた感じの大神官様が? なんだか意外ねぇ」
「あのひとは昔から、僕たちが度を過ぎたことをするとゲンコツを落としてたよ。滅多にはないけどね」
えっ、とプリエールが驚きの声をあげる。ルクシアルの大神官ともあろう人がグーでひとを殴ったことも、彼をそこまで怒らせたことがあるというモーアンに対してもだ。
「そうそう。まぁ痛みは大したことないんだけど衝撃はでかいし、何より効くのはその後のハグだよな」
思い出しているのか、ふっと目を伏せ、静かに微笑むノクス。
「……自分がとんでもないことをしたんだって、心配させたんだって、わかるからさ」
しばしの間訪れた静寂を、彼は左右に首を振って追い払う。
「んで、今は罰としてここの警備や復興の指揮をとってるんだよ」
「えっ、大丈夫なの? 町や神殿を襲ったのみんな知ってるんでしょ?」
すかさず飛んできたサニーの素朴な疑問と真っ直ぐとした視線に、ノクスが一瞬息を詰まらせた。
「うっ……まぁ、そうなんだが、ルーメン様がみんなの前で頭を下げてくださってなぁ……ケイオスの企みを阻止するためだとか、まあ間違ってはいないんだけど……」
誰よりもノクス自身が、ルクシアルの人々に受け入れてもらえると思っていなかったのだろう。
ばつが悪そうに頭を掻きながら、彼は言葉を続ける。
「やらかしたことが大きいし、もちろん最初は難色を示されたりもしたけど、神官として、ルクシアルの人間としての俺を見ていてくれた人たちもいて……」
「悪ガキではあったけど、神官の仕事はきっちりしてたし人望あったもんね」
「う、うるせえよ。ほら、ルーメン様のとこ行くんだろ! こんなところで立ち話してんなよ、ほらほら!」
耳まで真っ赤になった顔を伏せ、両手でモーアンの背中をぐいぐいと強引に押して神殿へ案内するノクス。
そんな彼に注がれる視線は、微笑ましくも優しいものばかりであった。
代わりに神官や騎士がそこかしこに立って見回りをして、彼らの安全を守っているようだ。
その中に、ひとりエイミたちも見知った顔を見つけ、駆け寄る。
「ノクスさん!」
「ノクス!」
短く跳ねた金茶の髪に鋭い菫色の目。モーアンよりしっかりした体格の青年神官は、自分を呼ぶ声に気づくと振り向き、破顔した。
「モーアン、戻ってきたんだな。星の庭へは……」
「行けたよ。レレニティア様ともお話しできた。そのことで話があるんだけど、その前に……」
モーアンの……いや、仲間たちの視線は、ほぼ一点に注がれていた。
ノクスの頬は赤く腫れており、男前が台無しに。けれども彼の表情は、以前より幾分か晴れやかになって。
「その顔、まさかルーメン様に?」
「ああ。思いっきりグーでな。これだけの騒動を引き起こしたんだから、足りないぐらいだけど……いてて」
少しだけ喋りにくそうなノクスだが、優秀な回復魔法の使い手である彼が敢えて治していないのは、けじめのためもあるのだろう。
「グーって……あの落ち着いた感じの大神官様が? なんだか意外ねぇ」
「あのひとは昔から、僕たちが度を過ぎたことをするとゲンコツを落としてたよ。滅多にはないけどね」
えっ、とプリエールが驚きの声をあげる。ルクシアルの大神官ともあろう人がグーでひとを殴ったことも、彼をそこまで怒らせたことがあるというモーアンに対してもだ。
「そうそう。まぁ痛みは大したことないんだけど衝撃はでかいし、何より効くのはその後のハグだよな」
思い出しているのか、ふっと目を伏せ、静かに微笑むノクス。
「……自分がとんでもないことをしたんだって、心配させたんだって、わかるからさ」
しばしの間訪れた静寂を、彼は左右に首を振って追い払う。
「んで、今は罰としてここの警備や復興の指揮をとってるんだよ」
「えっ、大丈夫なの? 町や神殿を襲ったのみんな知ってるんでしょ?」
すかさず飛んできたサニーの素朴な疑問と真っ直ぐとした視線に、ノクスが一瞬息を詰まらせた。
「うっ……まぁ、そうなんだが、ルーメン様がみんなの前で頭を下げてくださってなぁ……ケイオスの企みを阻止するためだとか、まあ間違ってはいないんだけど……」
誰よりもノクス自身が、ルクシアルの人々に受け入れてもらえると思っていなかったのだろう。
ばつが悪そうに頭を掻きながら、彼は言葉を続ける。
「やらかしたことが大きいし、もちろん最初は難色を示されたりもしたけど、神官として、ルクシアルの人間としての俺を見ていてくれた人たちもいて……」
「悪ガキではあったけど、神官の仕事はきっちりしてたし人望あったもんね」
「う、うるせえよ。ほら、ルーメン様のとこ行くんだろ! こんなところで立ち話してんなよ、ほらほら!」
耳まで真っ赤になった顔を伏せ、両手でモーアンの背中をぐいぐいと強引に押して神殿へ案内するノクス。
そんな彼に注がれる視線は、微笑ましくも優しいものばかりであった。
