50:災禍と呼ばれしもの

 地下坑道の最奥部に隠された大部屋。石柱に封印されていた地の災禍は、上半身だけで浮遊する金属製の巨人だった。
 特に大きな手はエイミたちの身長近くまであり、太い腕を自在に振り回されれば、近づくことも容易ではないだろう。

「にしても、こいつは一体……」
『地の災禍はもともと古代魔法都市の守護人形だったんだ……それをケイオスの奴が弄くりやがって、無差別に破壊を振り撒く兵器にされちまった』
「なんだって……!?」

 ガネットの解説を聞き、地の災禍を見上げるフォンド。
 無機質な自動人形の顔から表情や感情はわからないが、

「こいつも本来は“守る者”だったのか。それなのに……」

 役目を奪われて、書き換えられて。
 人を守るために生み出されたそれが、人を襲い、ついには“災禍”と呼ばれるようになり、封印されて……
 作り物に感情などないのかもしれない。今となっては本来の作り手がこの守護者にいかほどの愛情を注いでいたのかも、またはただの道具として生み出したに過ぎないのかも計り知れない。
 けれども、フォンドには災禍の経緯がひどく悲しく思えた。

「でしたら、これ以上何も壊させません。ここで食い止めて、終わらせます!」
「……おう。そうだな!」

 たとえ守護者に意思がなかろうと、無差別的な破壊が彼が生み出された意図に反する行為であることは確かだ。
 エイミが槍を向けると、地の災禍の両目が再び赤く光る。

〈主以外ノ生命反応ヲ確認。排除。ハイジョ〉
「しゃべった!」

 ヒトの声と呼ぶにはあまりにもたどたどしく温度のない音声は、災禍の頭部から発せられた。
 災禍は両腕を横に突き出し、接続部から炎をあげながらそれをエイミたちに向かって飛ばす。

「腕が飛んだ!」
「そんなこともできるの!?」

 離れた腕は獲物に当たり損ねて地面に突き刺さるが、ひとりでに抜けてゆっくりと胴体へ戻っていく。
 ただでさえ威力が高そうなパンチが、自在に飛んでくるなんて……モーアンの顔に「聞いてないよ」と書いてあった。

「これじゃ下がって詠唱しても危険だよね……」
「モーアン、あたしの隣に来て。なるべく近くに!」
「へ?」

 後方のプリエールの声に従い、彼女の傍に駆け寄るモーアン。
 災禍の登場で舞い上がった砂煙が、ふたりの周りに集まっていく。

「これだけ地の魔力が濃ければ……新技いくわよ!」

 細かな砂の粒子が壁となり、術者をドーム状に覆う。
 視界を完全に塞がないようにところどころ隙間が開いたそれは一見すると薄い土の壁だが、硬度はそれなりにあるようだ。

「すご……」
「ちょっとした気休め程度の防御壁だけど、詠唱中の保険には使えるわ」

 プリエールの話では、基本的に敵を近づけさせなければ、万が一飛んできた一撃二撃くらいなら耐えられるらしい。
 この洞窟のように周囲に地に属するものや魔力が多ければ、強度も形成速度も上がるのだという。

「というわけで、しっかり引きつけといてね!」
「おう、わかったぜ!」
「おまかせください!」

 後方の安全が確保されれば、前衛も攻撃に集中できるだろう。
 エイミたちは改めて地の災禍に向き直り、身構えるのだった。
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