4:ルクシアルへ続く道

 ぴちょん、と垂れる雫が薄暗い洞窟内で微かな音を立てる。
 女神を祀る最大の信仰都市ルクシアルに通じる道の中でもっとも緩くよく使われるものがこの洞窟だが、危険が全くないわけではない。

「うおっ!」

 バサバサとフォンドの耳元を駆け抜けていったのは、小さなコウモリ型の魔物だ。
 他にもこちらの様子を窺っているのが数匹……周囲に視線を巡らせ、エイミは槍の柄を握り締めた。

『じめじめしてヤーなカンジぃ……』
「暗くて足元が見えづらい上にところどころ滑りやすくなってる。気をつけろよ」
「は、はい」

 潜めた声が響き、不安を煽る。
 ルクシアルへ向かう人々は本当にこんな道を多用しているのか……ふと、エイミの思考に疑問がよぎった。

「魔物もいて、足場も悪くて……ここが最も使われる道、なんですよね?」
「金や時間がある奴は、整備された大回りな街道を行くって村の人が言ってたな。港町からそれ用の馬車も出てるって」

 つまり洞窟も星見の丘も避けてルクシアルへ直行できるルートがあるのだという。
 地図でルクシアルへの道のりを確認した際にエイミもその街道を見ていたのだが、ほぼ最短ルートのこちらとは違い、ルクシアルを囲む山々の切れ目にぐるりと回り込んだ長い長いその道を選ぶ気にはならなかった。

「……お金も時間も、今のわたしたちにはありませんね」
「そういうこった。慣れた冒険者や地元民なら圧倒的にこっちのが早いって話だ」

 村の中で仕入れた情報を披露するフォンドに、ミューがじろじろ含みのある視線を向け、にやりと笑う。

『その早いはずの道で朝早くに出たのに迷子になって追いつかれたのは誰かしらねえ?』
「うぐっ、う、うるせえよ……」

 痛いところを突かれて不服そうに唇を尖らせるフォンド。
 喧嘩になる前に止めた方がいいだろうかと二人の間で心配そうにエイミが口を開きかけた、その時。

「きゃ……!」

 大地が唸るような不気味な音と共に地面が突然揺らぎ、体勢を崩しかける一同。
 どうにかもち直し、揺れがおさまるのを待つとおそるおそる顔を見合わせた。
 こんな狭くて逃げ場のない洞窟内で地震なんて冗談じゃない、と言わんばかりにミューが慌ただしく飛び回る。

『何よ、何なのよ今のは!?』
「一瞬だったな……ふたりとも大丈夫か?」
「妙な感じでしたね。ただの地震とは違うような……」

 ただの地震でないなら、何なのだろうか。思わず口にしてしまった言葉にふと考えるエイミだったが、

「う、うわぁぁっ!」

 ガラガラと何かが崩れる音と、男性の悲鳴。
 エイミは疑問をひとまず置いて、声のする方へと顔を向けた。

「もしかして、今の揺れで崩落を……!?」
「行こうぜ、エイミ!」

 フォンドがそう言う頃には、ふたりはもう駆け出していた。

『ちょ、ちょっと!』

 先程までの慎重さはどこへやら、奥へ奥へと進んでいくふたりの後を、ミューが慌てて追いかける。
 辺りにいた魔物たちは、いつの間にか姿を消していた。
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