48:女神レレニティア
『あっ、そ、それよりこの“星の庭”に突入しようとしてる連中のこと……!』
ここに来る直前まで、一行は星の庭の入り口を守る結界に何度も突撃している者たちの姿を見ていた。
あれからそれなりに時間が経っている。あまり悠長にしていられないのではと慌てるミューだったが、対するレレニティアは落ち着き払った様子で、
「ああ、それならさっき諦めたみたいだよ。少し前に引き上げていった」
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
「私はここを動けない代わりに、世界中のいろいろなものを覗いてきたんだ。こうやって、ね」
レレニティアが手を横に払うと、広く鏡のような水面のあちこちに映像が映し出される。
砂漠に雪原、果ては見たことのない景色まで。世界中のあらゆる場所が、この場にいながら手に取るように見えた。
「あれは、ドラゴニカ城……?」
「すごい……あっちはクバッサの宮殿内だよ。レインがいる!」
しばらくぶりに見る故郷の人たちは元気そうで、エイミたちの表情が和らぐ。
向こうからこちらはわからないようだが、それでも幾らかの安心は得られるものだった。
「これにも制約はかかるから何もかもを自在に観られるワケじゃないんだけど、みんなの旅路は追わせてもらったよ。なんだか懐かしくて、久し振りに楽しかった」
『レニちん……』
千年前、精霊を連れて世界中を旅していたのはレレニティアだ。
星樹から離れられない状況で、どんな気持ちで……幼い頃からの友である木精霊が切なげに目を伏せる。
「そうだ、災禍……禁呪の魔法士ケイオスは災禍を目覚めさせると言っていたそうです。貴女は何か知りませんか?」
霊峰で会ったノクスから聞いた話を思い出したモーアンは、レレニティアに問いかける。
「……この水辺の周囲に八本の柱が建っているでしょう?」
「あ、このなんか意味深なやつ?」
サニーが柱のひとつを指さした。古びた白い石柱は、ところどころうっすらとヒビが入っている。
「それは災禍の封印とリンクしてるの。その柱が砕け散った時、災禍は地上に蘇る」
「なんか、あんまり頑丈そうに見えないんだけど……」
「こうなったのはここ最近だよ。私の力が弱まったせいもあるけど、おそらく、封印を解こうと各地であれこれやってるんだろうね」
などと言っている間に、ぴし、と音を立てて柱に亀裂が走る。
「い、今、柱が……!」
「まずい……思ったより復活が近そうだ。みんな、災禍の封印場所に向かってくれない?」
「今の話からすると、八箇所もあるってこと?」
そんなにあちこち行ってたら間に合わないんじゃ、とプリエールが不安げな顔をするが、
「フリュエラならひとっ飛びだから。つばさのベルを鳴らせば、ここにも飛んで来てくれるよ」
「わかりました……!」
エイミがベルを掲げて揺らし、リィンと透き通るような音色が響き渡った途端、たちまち六人の姿は白い風に攫われ、忽然と消えてしまう。
かつてはレレニティアを、そして今またこの世界の命運と希望を託された若者たちを乗せて……翼の聖獣フリュエラは、女神をちらりと一瞥して、星の庭の出口へと飛び去った。
「……まったく。ゆっくり話す暇もくれないんだから」
再び静けさを取り戻した聖域。ひとり残された女神は、やれやれと溜息をつくのだった。
ここに来る直前まで、一行は星の庭の入り口を守る結界に何度も突撃している者たちの姿を見ていた。
あれからそれなりに時間が経っている。あまり悠長にしていられないのではと慌てるミューだったが、対するレレニティアは落ち着き払った様子で、
「ああ、それならさっき諦めたみたいだよ。少し前に引き上げていった」
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
「私はここを動けない代わりに、世界中のいろいろなものを覗いてきたんだ。こうやって、ね」
レレニティアが手を横に払うと、広く鏡のような水面のあちこちに映像が映し出される。
砂漠に雪原、果ては見たことのない景色まで。世界中のあらゆる場所が、この場にいながら手に取るように見えた。
「あれは、ドラゴニカ城……?」
「すごい……あっちはクバッサの宮殿内だよ。レインがいる!」
しばらくぶりに見る故郷の人たちは元気そうで、エイミたちの表情が和らぐ。
向こうからこちらはわからないようだが、それでも幾らかの安心は得られるものだった。
「これにも制約はかかるから何もかもを自在に観られるワケじゃないんだけど、みんなの旅路は追わせてもらったよ。なんだか懐かしくて、久し振りに楽しかった」
『レニちん……』
千年前、精霊を連れて世界中を旅していたのはレレニティアだ。
星樹から離れられない状況で、どんな気持ちで……幼い頃からの友である木精霊が切なげに目を伏せる。
「そうだ、災禍……禁呪の魔法士ケイオスは災禍を目覚めさせると言っていたそうです。貴女は何か知りませんか?」
霊峰で会ったノクスから聞いた話を思い出したモーアンは、レレニティアに問いかける。
「……この水辺の周囲に八本の柱が建っているでしょう?」
「あ、このなんか意味深なやつ?」
サニーが柱のひとつを指さした。古びた白い石柱は、ところどころうっすらとヒビが入っている。
「それは災禍の封印とリンクしてるの。その柱が砕け散った時、災禍は地上に蘇る」
「なんか、あんまり頑丈そうに見えないんだけど……」
「こうなったのはここ最近だよ。私の力が弱まったせいもあるけど、おそらく、封印を解こうと各地であれこれやってるんだろうね」
などと言っている間に、ぴし、と音を立てて柱に亀裂が走る。
「い、今、柱が……!」
「まずい……思ったより復活が近そうだ。みんな、災禍の封印場所に向かってくれない?」
「今の話からすると、八箇所もあるってこと?」
そんなにあちこち行ってたら間に合わないんじゃ、とプリエールが不安げな顔をするが、
「フリュエラならひとっ飛びだから。つばさのベルを鳴らせば、ここにも飛んで来てくれるよ」
「わかりました……!」
エイミがベルを掲げて揺らし、リィンと透き通るような音色が響き渡った途端、たちまち六人の姿は白い風に攫われ、忽然と消えてしまう。
かつてはレレニティアを、そして今またこの世界の命運と希望を託された若者たちを乗せて……翼の聖獣フリュエラは、女神をちらりと一瞥して、星の庭の出口へと飛び去った。
「……まったく。ゆっくり話す暇もくれないんだから」
再び静けさを取り戻した聖域。ひとり残された女神は、やれやれと溜息をつくのだった。
