48:女神レレニティア

 女神ではなく“レレニティア”として、砕けた口調はルクシアルで聞いたものとまるで違うものだった。
 彼女はエイミたちの顔を順番に見、そして話し始める。

「私がみんなに託した“聖なる種子”は星樹の力の小さな欠片。ここから届けられる精一杯だったんだよ」
「星樹の、力……」
「だからここに来ればそれも活性化して、力がみなぎる。それにしてもみんな、種子を大きく成長させたね」

 私の見立て以上だ、と頷くレレニティア。

「時間がなかったし、私から贈れる力は限られているから、ルクシアルを訪れた人々の中で特に見込みのありそうな人を選んだんだけど、それがこれだけ揃うなんてね」
「見込みって?」
「復活した千年前の脅威に因縁があって、己で道を切り開こうともがいていた者、かな」

 常に危険がつきまとう、世界中を回るほどの長旅をするには、強い動機が必要だ。
 実際、エイミたちは多くの困難に立ち向かいながら、精霊や聖獣との出会いを果たし、この星の庭まで辿り着くことができた。

「んじゃ、成長した今のこの力ならアイツらに太刀打ちできねえか?」
「いーや、まだまだ全然。私に言わせりゃようやくひよっこが殻を破ったとこ」
「そ、そっかぁ……」

 あっさり一蹴されて肩を落とすフォンド。とはいえ、世界を救った女神からすれば、当然と言えるだろう。

「女神さ……いえ、レレニティアさん」

 しばしの逡巡ののち、エイミはそう言い直した。
 素を出したレレニティアは“女神”と呼ばれることを嫌いそうな気がしたからだ。

「……ふふ。レニでいいよ、長いし」

 レレニティアは少しだけ嬉しそうに笑い、エイミの方を向く。

「レニさんは、ここを離れることはできないんですよね?」
「私が女神になったのは、星樹を……この世界を救うためだからね」

 白く細い手が、星樹の幹を撫でる。レレニティアは俯き、ヴェールの向こうで静かに目を伏せた。

「千年前、最後の戦いの時……奴らはここまで攻めてきた。この星樹が千年に一度生み出す特別な果実を食べれば、神に等しい力を得られる……そんな伝説があるんだ」
「そんな話が……」
 
 モーアンはそこまで言いかけて、はっと口を噤んだ。
 その伝説が今も残っていれば、新たな争いの種が生まれたかもしれない。そうなれば、真っ先に狙われるのは聖域への鍵をもつルクシアルだ。

(だから鍵はひっそりと管理されていた……長年訪れる者がいなくても?)

 もしかしたら大神官ルーメンは伝説について知っているのだろうか……一旦その考えから離れ、モーアンは再び女神の話に耳を傾ける。

「激しい戦いで星樹自身も大きく傷つき、消えようとしていた。星樹はこの世界に自然や精霊の恵みをもたらす存在。もしなくなれば、この世界は先細り、やがて枯れ果ててしまう」
「魔界と、同じ……」

 ぽつりとこぼれたエイミの呟きに小さく頷くレレニティア。
 千年前にこの世界から切り離されて封印された魔界は、星樹の恵みからも切り離され、衰退が進んでいる。エイミたちは魔界の王子シルヴァンから以前聞いた話を思い出した。

「消えゆく星樹が最期の力を振り絞って、私に果実を託した。それを食べた私は女神となり、同時に星樹の一部となったんだよ」
「レニが星樹の一部になったから、傷ついて失われた部分が補われたの?」
「そういうこと」

 だから、ここから動けない。レレニティアは寂しげにそう告げた。
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