48:女神レレニティア

 遠くから見えた星樹らしき木は、薄く水が張った巨大な水溜まりの中心部にどっしりと根を張っていた。
 色違いの石が埋め込まれた八つの白い石柱に囲まれ、景色が映るほど澄んだ水面におそるおそる足を踏み入れれば、歩くたびにぱしゃりと水が跳ね、波紋で乱れる。

「なんだか、立ち入ってしまうのが申し訳ないですね……」
『けど、ほっといたらここを荒らしまくるような奴らがズンドコ入って来ちゃうのよ?』
「ず、ズンドコ……?」

 相棒の奇妙な言い回しに首を傾げるエイミだが、言い分自体はもっともで、こうしている間にも星の庭の入り口はあらゆる勢力に狙われている。
 六人ぶんの足音を響かせながら、靴底が浸る程度の水溜まりを進むと……

「この木、光る花が咲いてるわ……」
「だから星の樹……“星樹”ってことなのかな?」

 プリエールとサニーの呟きどおり、中央の大樹は城かと思うほど巨大なその規模もさることながら、ぼうっと光る小さな花をたくさん咲かせ、近くで見上げるとそれは満開の星空のようだった。
 豊かな葉が広がる緑色の空にきらめく花の星々。神秘的な光景に、誰もが一瞬見惚れ、溜息をこぼす。

「綺麗だなぁ……それになんだかチカラが湧いてくるぜ」
「言われてみれば……このあたたかいものは、星樹から溢れているのでしょうか?」

 それは目には見えないが、全員が同様に感じているものだった。
 優しく、穏やかで、あたたかい。そこにいるだけで元気が湧いてくるような、癒されるような感覚。

「その通りです」
「!」

 いつの間に現れたのだろうか、星樹の根元にひとりの女性が立っていた。
 エメラルドの長い髪をふたつに分けて三つ編みにし、目元をヴェールで隠した女性。白いシンプルなドレスや髪のあちこちに花を飾り、大きく開いたスリットから覗く素足に金色のサンダルという出で立ちで……

「女神……レレニティア、様?」

 物語から抜け出してきたそのもののような姿に、ぽろりとそう口にしたのはモーアンだ。
 レレニティアはにっこりと微笑みを返し、そして口を開く。

「私は星樹の女神、レレニティア。聖なる種子を継ぐ者たちよ、よくぞここまで……」
《あーレニちん、そういうのいいって。ラクに喋ったら?》
「………………」

 女神らしく威厳と品格に満ち溢れた振る舞いが、木精霊の乱入でピタリと止まる。
 やがて特大の溜息と共に女神はぐりぐりと肩を回しだした。

「それもそうだね。精霊たちと旅をしてシルワ島まで行ったなら、もう私のこともある程度は聞いてるだろうし。たとえば……」

 と、彼女は顔の上半分を隠しミステリアスさを演出していた白い半透明のヴェールをあっさり捲ってみせる。

「なっ……!?」
「そこのお兄さん……シグルスだったね。私が君と同じハーフエルフだったってことも」

 現れたのは、シグルスと同じ色――今のこの世界では忌み嫌われる、赤い瞳。
 それはまたすぐに降ろしたヴェールによって隠れてしまうが、薄く透けた向こう側で、優しく細められているのが見えた。
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