47:翼の聖獣フリュエラ
霊峰エスカリエの頂上。
通常、神殿によって管理される入り口が閉ざされているそこは、人が立ち入ることのない静かな場所だったであろう。
だが今は酷く荒らされており、無残になぎ倒された木や地面のあちこちに開いた穴から、激しい戦闘があったことを想像させる。
そんな中でひとり、力なく横たわる者の姿を見つけると、モーアンが慌てて駆け寄った。
「ノクスっ!」
「うう……」
ぴく、と身動ぎ、小さな呻き。どうやら息はあるようで、モーアンが僅かな安堵を零す。
まずは回復魔法でノクスの傷を癒し、上体を抱き起こすと、彼は苦しげながら口を開いた。
「……はは。かっこわりぃ……せっかくバリバリの悪役演じてやったってのに……」
自嘲気味の呟きと共に彼の周囲から黒い靄が離れ、仲間たちが顔を見合わせる。
ルクシアルで遭遇した時にモーアンが拾った紙切れに書かれていた“今は何も聞かないでくれ”は、やはりノクスの言葉だったようだ。
「何があったのか、話してくれる?」
「禁呪の魔法士ケイオス……あの陰険ヤローに、ルーチェの魂を盾にとられてた」
その名に聞き覚えがあり、え、と声をあげたのはエイミだった。
「ルーチェって確か、ノクスさんの……」
「婚約者だよ。一年前に突然、彼の前で亡くなったんだ」
気さくで朗らかなノクスが一時期塞ぎ込んでしまった事件。そして、彼が豹変し、モーアンの前から姿を消したときにもその名を口にしていた。
「ルーチェを蘇らせてやるとも言われてたが、同時にいつでもその魂を消滅させてやれるんだとも脅されて……だから、アイツの言葉を盲信して従順なフリをしてた」
ある程度動きも監視されてたしな、とノクス。
だから、ともすれば見落としかねない小さな紙切れに、モーアンならば見つけてくれるかもしれないと密かに本心を託したのだ。
「油断させていつかルーチェの魂を助け出すつもりだったのに、神殿を襲わせて、星の庭の扉に辿り着いた途端に用無しだと……そしてこのザマさ」
派手に砕かれた岩や鎖の残骸が、どうやら星の庭への扉を開く鍵を祀っていた祠か、或いは鍵そのものか……何にせよ、手遅れだということはひと目でわかる。
「神殿に難なく侵入できるルクシアルの神官……それがアイツの計画に必要な駒だったってワケね。他人を利用してばっかりで、どこまでもムカつくヤツ……!」
俯き、ざり、と足に力を込めて地面を躙るプリエールの口許が怒りに震えている。
ケイオスの肉体は彼女の友人アルバトロスのものだ。それなのに、その姿で悪事を重ねるさまは、彼女にとっては特に耐え難いものとなるのだろう。
「……それに、ルーチェの命を奪ったのは、他でもないあのヤローさ」
「!」
「俺の目の前で突然倒れたルーチェの周りに、僅かだが黒い靄が見えた。きらめきの森でアレを見た時に確信したよ」
大切な者の命を奪った相手に、そうと知らないふりをして従い続けるのはどれだけ辛く、はらわたが煮えくりかえるような思いだっただろうか。
親友のモーアンや大神官ルーメン、そして神殿の人々やルクシアルの町まで傷つけて見せたというのに……
『あっ! みんな、空を見て!』
一行の思考を引き戻したのは、ミューの声。
ハッとして空を見れば、ぽっかりと開いた穴から煌々とした光が溢れ、まるで第二の月のように浮かんでいた。
通常、神殿によって管理される入り口が閉ざされているそこは、人が立ち入ることのない静かな場所だったであろう。
だが今は酷く荒らされており、無残になぎ倒された木や地面のあちこちに開いた穴から、激しい戦闘があったことを想像させる。
そんな中でひとり、力なく横たわる者の姿を見つけると、モーアンが慌てて駆け寄った。
「ノクスっ!」
「うう……」
ぴく、と身動ぎ、小さな呻き。どうやら息はあるようで、モーアンが僅かな安堵を零す。
まずは回復魔法でノクスの傷を癒し、上体を抱き起こすと、彼は苦しげながら口を開いた。
「……はは。かっこわりぃ……せっかくバリバリの悪役演じてやったってのに……」
自嘲気味の呟きと共に彼の周囲から黒い靄が離れ、仲間たちが顔を見合わせる。
ルクシアルで遭遇した時にモーアンが拾った紙切れに書かれていた“今は何も聞かないでくれ”は、やはりノクスの言葉だったようだ。
「何があったのか、話してくれる?」
「禁呪の魔法士ケイオス……あの陰険ヤローに、ルーチェの魂を盾にとられてた」
その名に聞き覚えがあり、え、と声をあげたのはエイミだった。
「ルーチェって確か、ノクスさんの……」
「婚約者だよ。一年前に突然、彼の前で亡くなったんだ」
気さくで朗らかなノクスが一時期塞ぎ込んでしまった事件。そして、彼が豹変し、モーアンの前から姿を消したときにもその名を口にしていた。
「ルーチェを蘇らせてやるとも言われてたが、同時にいつでもその魂を消滅させてやれるんだとも脅されて……だから、アイツの言葉を盲信して従順なフリをしてた」
ある程度動きも監視されてたしな、とノクス。
だから、ともすれば見落としかねない小さな紙切れに、モーアンならば見つけてくれるかもしれないと密かに本心を託したのだ。
「油断させていつかルーチェの魂を助け出すつもりだったのに、神殿を襲わせて、星の庭の扉に辿り着いた途端に用無しだと……そしてこのザマさ」
派手に砕かれた岩や鎖の残骸が、どうやら星の庭への扉を開く鍵を祀っていた祠か、或いは鍵そのものか……何にせよ、手遅れだということはひと目でわかる。
「神殿に難なく侵入できるルクシアルの神官……それがアイツの計画に必要な駒だったってワケね。他人を利用してばっかりで、どこまでもムカつくヤツ……!」
俯き、ざり、と足に力を込めて地面を躙るプリエールの口許が怒りに震えている。
ケイオスの肉体は彼女の友人アルバトロスのものだ。それなのに、その姿で悪事を重ねるさまは、彼女にとっては特に耐え難いものとなるのだろう。
「……それに、ルーチェの命を奪ったのは、他でもないあのヤローさ」
「!」
「俺の目の前で突然倒れたルーチェの周りに、僅かだが黒い靄が見えた。きらめきの森でアレを見た時に確信したよ」
大切な者の命を奪った相手に、そうと知らないふりをして従い続けるのはどれだけ辛く、はらわたが煮えくりかえるような思いだっただろうか。
親友のモーアンや大神官ルーメン、そして神殿の人々やルクシアルの町まで傷つけて見せたというのに……
『あっ! みんな、空を見て!』
一行の思考を引き戻したのは、ミューの声。
ハッとして空を見れば、ぽっかりと開いた穴から煌々とした光が溢れ、まるで第二の月のように浮かんでいた。
