46:空の王者、来襲

 一度不利が覆されれば、あとは状況をこちらに転がしていくのみ。
 最初こそ空中からの攻撃に苦戦を強いられた一行も、長い旅の間にさまざまな力や技術を身に着け、竜を退けるまでに成長していたのだ。
 精霊の力を借りて気絶させた竜たちにかけられていた術を解き、モーアンが魔法で傷を回復させてやると、程なくして彼らは目を覚ます。

『……エルミナ様っ!?』
『も、申し訳ございませんでしたぁ!』

 どうやら竜たちには先程までの記憶もしっかり残っていたようで、真っ先に自国の姫に攻撃してしまったことへの謝罪を口にし、地面と一体化してしまいそうなほどに平伏した。

「わぁ、竜が土下座してる……」
「え、ええと……もういいのよ。あなたたちが無事で良かったわ」

 頭を上げてくれないと話ができないと言われ、竜たちはおそるおそるそれに従う。
 武人気質の炎竜ペラルゴと勝ち気な風竜ユッカ。エイミは彼らを改めてそう紹介した。

『いくら幻術に惑わされていたとはいえ、エルミナ様を憎き魔族と間違え、おまけにその魔族に従っていただなんて……』
「そのことはもういいわ。それよりも、あなたたちの力を借りたいの」
『へ?』

 にこ、と天使のように微笑むエイミ。ついさっきまで槍を軽々と振り回していたとは思えない細く白い手が、竜の鱗にそっと添えられる。

「今、この山の頂上に急がなければならないの。事情は道すがら話すから、仲間たちを上へ運んでくれないかしら?」

 世界の存亡がかかった道中で、ただでさえ後れを取っているのに、ここでの戦闘で時間を使ってしまった。
 けれども竜が頂上まで運んでくれるなら、それも一気に取り戻せるだろう。
 償いならばそれで充分だ、と言外に含めて……そんな王女の意思を汲み取った竜たちは、頼もしげに胸板を叩いて見せる。

『エルミナ様……承知いたしました!』
『張り切って運ばせていただきますよ!』

 もう険しい山道を歩かなくてもいい。
 直線距離で一気に上まで行けるとわかって、一行の表情が明るくなった。

「やったぁ! これでひとっ飛びだー!」
「あ、行く前にクレーシェの力を借りてここの女神像の修復もしておくよ。休める場所は必要だからね」

 時を司る月精霊は対象の時間をある程度操ることもできる。破壊された女神像も、元通りに直せるのだという。
 いつものように結界も修復しておけば、ここはちょうどいい休憩場所になる。

「じゃあ少しだけ休憩したら出発だな。さすがにちょっと疲れちまったぜ」

 大きく伸びをしてその場に腰掛けたフォンドを、シグルスがフン、と鼻を鳴らして見下ろした。

「そんなものか。俺はまだまだいける」
「いいから休んどけよ!」
「そうですよ、シグルス。何が待っているかわからないんですから!」
「うおっ!?」

 と、エイミがシグルスの両肩に手を置き、無理やりその場に座らせる。
 メンバー随一の怪力相手では、シグルスも従うほかなかった。
 そんな光景を、竜たちはやや遠巻きに見守りながら、口を開く。

『姫様……明るく、強くなったな』
『そうだね。頼もしいばかりだ』
『戦っていた時の……さっきの一撃はシャレにならなかったしな……』
『まだまだ強くなるよ、あれは……』

 彼らのやりとりを横目に、ミューが『当然よ』と胸を張る。
 霊峰エスカリエの頂上まで、あと少し。戦いの後の、束の間の休息であった。
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