46:空の王者、来襲

 上空を飛び回る二匹の竜に負けじと、ミューの背に乗って応戦するエイミ。
 ドラゴニカの竜騎士であり、同時に王女でもある彼女からすればこの竜たちも見知った顔で、思い切った攻撃ができず防戦一方になってしまっている。

「ペラルゴ、ユッカ! わたし、エルミナよ! わからないの!?」
『エル、ミナ、さま……そうだっ!』

 ペラルゴは灰青眼のがっしりした赤竜、ユッカは金眼のややスマートな緑竜。
 エイミの悲痛な叫びに片方の竜が動きを止めるが、直後、その目が大きく見開かれる。

『……エルミナ様も、城を包む炎の中に……おのれ侵略者め、許すわけにはいかぬ!』
『えっ!?』
「きゃあ!」

 ペラルゴが攻撃したのは、そのエルミナ本人だった。
 長い尾を振り回す力任せの一撃は、すんでのところでどうにか躱し、距離をとる。

「ど、どうして……?」
『ふむ、どうやら此奴ら、認識を狂わされておるようじゃ。そなたのことは……恐らく別の“なにか”に見えておる』

 そう言いながら現れた月精霊クレーシェは、竜たちをじっと見つめ、分析する。

『口振りから察するに、周りのものが“城や仲間を奪った敵”に見えているのやもしれぬな。幻覚と、幻聴……此奴らに見えている景色は、全く別のものよ』
「そんなこともできるのかよ……どうすれば解けるんだ?」

 会話の最中にも、敵は待ってくれない。上空から繰り出される攻撃を捌きながら、フォンドが声をあげた。

『今回はわらわではなくディアマントの力を借りることになるが、やることは同じよ。弱らせて、地面に引き摺りおろしてやれば解呪もできよう』

 クレーシェが指す“前回”は、常夜の島セレネでのジャーマとの戦いのこと。ガルディオの術で強化されると同時に命を握られていたジャーマを救うには、彼の暴走を止める必要があった。

『わかったわ。竜は頑丈だから、多少手荒にやっちゃっても大丈夫よ!』

 私が保証するわ、とミュー。最強の魔物の名は伊達ではないということだ。

「後で僕が傷を治すよ。回復魔法の腕も上がったしね」
「そういうことなら単純で助かる」
「っしゃあ!」
「せめて、なるべく迅速に……!」

 思いっきりやっていい、と聞いた途端にシグルスとフォンド、エイミの動きが変わる。
 一刻も早く解放してやりたい気持ちもあるが、上空を陣取られている以上、戦いを長引かせるのはこちらが不利になるだろう。

「剣に込めた魔力を集中させて……放つ!」

 先程付与した魔力を剣圧に混ぜ、冷気の衝撃波を飛ばす。
 ハーフエルフであるシグルスは魔力の扱いが器用で、剣技と魔法の組み合わせでこんな芸当を身に着けていた。

『ぐう……っ』

 燃え盛るような赤い鱗のペラルゴは見た目通りの炎竜で、冷気が苦手なようだ。
 シグルスの斬撃が掠めた翼が白く凍りつくと苦悶の表情を浮かべ、動きを鈍らせた。
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