45:天へと続く道

 そして、現在。
 抉れた床の一箇所のみを抵抗の跡として残す聖堂で、エイミたちは大神官の口からここまでの経緯を聞かされた。

「眠らされる直前、抵抗力を高める術を己にかけることができたが……それでも、一度は意識を失ってしまった」
「あっ、だから目覚めるのが早かったんですね」

 まだぼんやりしている他の神官たちと違って、同じ術で彼らより後に眠らされたはずのルーメンの語りは明瞭で、状況をしっかりと把握しているようだ。
 さすがルーメン様だ、と内心でモーアンが呟いた。

「それにしても、ノクスさんが神殿にわざわざやって来た理由は何なのでしょうか?」
「町をヘンテコ人形に襲わせたのは、混乱で誤魔化すためだよね? たぶん本当の目的はこっちにあったんだと思うよ」

 おそらく義賊としての経験だろうか、エイミの疑問にサニーはそう続けた。
 破壊される町に目を向けさせた上で、こちらに“何か”があったのだろう、と。

「別方向で騒ぎを起こした隙に、なんて、よくある手……あっ、アタシは壊したり怪我させるようなことはしないよ!」
「そんなことしたら正義の義賊なんて名乗れないだろ」
「はいはい。脱線はそのくらいにするわよ」

 ぱん、と手をひとつ叩いてサニーとシグルスのやりとりを終わらせるプリエール。
 本題はその先。ノクスがかつての仲間たちに術をかけてまでして、この神殿の聖堂に足を運んだ理由についてだ。

「きらめきの森の奥に、霊峰に続く封鎖された道がある。鍵は神殿で代々管理していたのだが……」
「じゃあノクスはその鍵を奪って……?」
「ああ。奴の目的は霊峰。及びその先にあるという“星の庭”への侵入だろう」

 神殿の神官であるノクスなら鍵の在処も知っている上に、神官たちを油断させることができる。
 女神が住むという星の庭に千年前からの恨みを募らせる“禁呪の魔法士”が目をつけたのなら、ノクスは丁度いい駒だ。

「じゃあまずはきらめきの森に急ぎましょう。霊峰を目指せば、ノクスさんの足取りを追うことになりますから!」
「追いつけたら止められるかもしれないもんな!」

 エイミとフォンドがそう言うと、早速神殿の出口へと向かうが……

『……うっ!』

 突如として姿を現した光精霊ディアマントが、日頃朗らかな顔を苦しげに歪ませる。

「どうしたの、アマ爺!?」
『森が……ワシの領域が、侵入者に荒らされておる……!』
「!」

 きらめきの森は初めてディアマントと出会った場所であり、彼の住処だ。
 凶暴な魔物も少なく穏やかなあの森で、先刻ノクスが町に放った自動人形が暴れているのだろうか。

「眠らされた神官たちも目覚めてきている。神殿や町の対処はこちらに任せて、ノクスを頼む」
「わかった。それじゃあ行くよ!」

 真っ先に駆け出したモーアンに続いて、仲間たちも聖堂をあとにする。
 残されたルーメンは静寂が戻った空間で、ひとり溜息をついた。

「……やれやれ。成長を喜ぶ暇もないな……」

 今度帰ってきた時には頭のひとつも撫でてやろうか。もう一人には拳骨だな、と。
 無事そんな時が訪れるよう、そっと女神像に祈るのだった。
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