45:天へと続く道
八精霊と契約を果たし中央大陸を訪れたエイミたちが、輝ける都ルクシアルに再び足を踏み入れる少し前のこと。
カツン、カツンとルクシアルの神殿内に響き渡る靴音。
慣れた様子で中へと進んでいくそれは、今は招かれざる侵入者の報せだ。
その証拠に、彼が歩いてきたところには数人の神官が倒れ伏している。
もともと平和が長く続いた世界で戦い慣れしていないとはいえ、あっさりと魔法で眠らされた神官たちを一瞥すると、侵入者は聖堂の扉を開けた。
「ノクス……」
侵入者の名を呼ぶ、壮年男性の声。俯きがちだった侵入者――ノクスが顔を上げれば、ここルクシアルで最高位の大神官ルーメンが悲痛な面持ちでそこにいた。
「……お久しぶりです、ルーメン様」
「急に姿を消したと思えば、一体どういうつもりだ?」
日頃穏やかな大神官だが、いつものような優しい言葉はない。神殿内の非常事態と、以前とは明らかに違うノクスの雰囲気に気づいているから。
ちら、と横たわる神官たちを見やるルーメン。ただ静かに眠っているだけの彼らに、ひとまずは安堵の息を吐く。
「皆は無事なのか」
「世話になりましたからね。無闇に傷つけたりはしません、が……」
ノクスがそう言うと、遠く、外で爆発音が響いた。
「!」
「……町の方は少し派手にやらせてもらいます。こうしないと納得してもらえないので」
神官服の白とは対照的な黒い靄を遊ばせながら、菫色の目を伏せる。そんなノクスの言葉には含みが感じられた。
「お前に命令している者がいるのだな。そんな力を与えた、何者かが」
「…………」
しばし、泳ぐ視線。はあ、と溜息が吐き出される。
「貴方もご存知でしょう。ケイオス……“禁呪の魔法士”の名は」
「禁呪の魔法士……あの千年前の!?」
「彼はルーチェを蘇らせると約束してくれました。女神や世界への復讐を手伝えば」
ルーチェとは、一年前に突然若くしてこの世を去った、ノクスの婚約者。
そして、大神官ルーメンの愛娘の名であった。
「さて、おしゃべりはこのくらいにして……俺はそろそろ失礼します」
「待てっ!」
ドカンと音を立て、ノクスがいる付近の床が削られる。咄嗟に放った光の攻撃魔法は、ルーメンが得意とするものだった。
「……そう、それでいい。大神官のアンタが無抵抗じゃ、カッコがつかないからな」
「ノクス……」
「おやすみ……ルーメン様」
ふわ、とルーメンの視界が闇に包まれ、全身から力を奪われる。
他の神官にかけたものと同じ、眠りの魔法か――ルーメンの瞼がずしりと重くなり、ノクスの足元に膝をつく。
「ルー、チェは……そんなこと、望んで……な……」
言葉はそこまで。大神官は力尽き、険しい表情のまま意識を失った。
「……そんなこと、わかってるっての」
最後に遠ざかっていく足音と、吐き捨てるようなノクスの声を、僅かに聞きながら。
カツン、カツンとルクシアルの神殿内に響き渡る靴音。
慣れた様子で中へと進んでいくそれは、今は招かれざる侵入者の報せだ。
その証拠に、彼が歩いてきたところには数人の神官が倒れ伏している。
もともと平和が長く続いた世界で戦い慣れしていないとはいえ、あっさりと魔法で眠らされた神官たちを一瞥すると、侵入者は聖堂の扉を開けた。
「ノクス……」
侵入者の名を呼ぶ、壮年男性の声。俯きがちだった侵入者――ノクスが顔を上げれば、ここルクシアルで最高位の大神官ルーメンが悲痛な面持ちでそこにいた。
「……お久しぶりです、ルーメン様」
「急に姿を消したと思えば、一体どういうつもりだ?」
日頃穏やかな大神官だが、いつものような優しい言葉はない。神殿内の非常事態と、以前とは明らかに違うノクスの雰囲気に気づいているから。
ちら、と横たわる神官たちを見やるルーメン。ただ静かに眠っているだけの彼らに、ひとまずは安堵の息を吐く。
「皆は無事なのか」
「世話になりましたからね。無闇に傷つけたりはしません、が……」
ノクスがそう言うと、遠く、外で爆発音が響いた。
「!」
「……町の方は少し派手にやらせてもらいます。こうしないと納得してもらえないので」
神官服の白とは対照的な黒い靄を遊ばせながら、菫色の目を伏せる。そんなノクスの言葉には含みが感じられた。
「お前に命令している者がいるのだな。そんな力を与えた、何者かが」
「…………」
しばし、泳ぐ視線。はあ、と溜息が吐き出される。
「貴方もご存知でしょう。ケイオス……“禁呪の魔法士”の名は」
「禁呪の魔法士……あの千年前の!?」
「彼はルーチェを蘇らせると約束してくれました。女神や世界への復讐を手伝えば」
ルーチェとは、一年前に突然若くしてこの世を去った、ノクスの婚約者。
そして、大神官ルーメンの愛娘の名であった。
「さて、おしゃべりはこのくらいにして……俺はそろそろ失礼します」
「待てっ!」
ドカンと音を立て、ノクスがいる付近の床が削られる。咄嗟に放った光の攻撃魔法は、ルーメンが得意とするものだった。
「……そう、それでいい。大神官のアンタが無抵抗じゃ、カッコがつかないからな」
「ノクス……」
「おやすみ……ルーメン様」
ふわ、とルーメンの視界が闇に包まれ、全身から力を奪われる。
他の神官にかけたものと同じ、眠りの魔法か――ルーメンの瞼がずしりと重くなり、ノクスの足元に膝をつく。
「ルー、チェは……そんなこと、望んで……な……」
言葉はそこまで。大神官は力尽き、険しい表情のまま意識を失った。
「……そんなこと、わかってるっての」
最後に遠ざかっていく足音と、吐き捨てるようなノクスの声を、僅かに聞きながら。
