44:聖都を襲った悪夢
全ての自動人形を倒し終えた後、安全を確認してエイミたちが武器をおろしたその時。
「強くなったじゃねえか、モーアン」
デコボコになった石畳をひとつひとつ踏む靴の音。ぱちぱちと乾いたまばらな拍手。それよりも、己の名を呼ぶ聞き覚えのある声……
弾かれたように振り向くと、そこにはモーアンと同じ神官服の青年がいた。
金茶の短い髪、モーアンよりややしっかりめの体格と、猫のような鋭さをもった菫色の眼。
「ノクス……」
震える声で、彼の名を呼ぶ。それはある日突然豹変し、モーアンの前から姿を消してしまった同僚で幼馴染の名だと、仲間たちも聞かされていたものだった。
「あの人がノクスさん……?」
『なんかヤな感じするわね……あんま迂闊に近寄らないほうがいいわよ』
竜の肌がざわつく違和感をおぼえ、威嚇するミュー。ノクスの周囲には、黒いモヤがじわりと染み出すように漂っている。
「なぁ、モーアン。神殿にいないと思ったら、ルクシアルを出て旅してたんだってな?」
「……君が“追いかけてくるな”と言ったからさ。世界中を回ったけど、まさか再会の場所がここになるとはね」
「はははっ! そうだったな……お前は、昔からそういう奴だった」
「君もね……ノクス」
再会を懐かしむ友人同士の親しげなやりとりに見えるが、互いに杖を握る手を緩めない。
しばしの睨み合いの後、ノクスがぱちんと片目を閉じた。
「……!」
「名残惜しいがそろそろお別れの時間だ」
言いながら右足で二回、地面を叩く。するとノクスの周囲を螺旋状にぐるりと黒い光が舞い遊ぶ。
「ノクス!」
「禁呪の魔法士ケイオスの次の狙いは“災禍”だ。まあ、お前らにできることはたかが知れてるがな!」
ノクスは手にした杖の先端を地面に思いっきり突き立て、己を中心に四方八方へと強力な衝撃波を飛ばした。
「ううっ!」
「きゃあぁ!」
突然のことに反応が間に合わず、体勢を崩されたモーアンたちはなすすべもなく吹き飛ばされ、地に伏した。
一行が顔を上げた時には、既にノクスの姿はなく、荒れ果てて見る影もない“輝ける都”の光景だけが残されていた。
「くっ……」
「モーアンさん……」
行方不明だった親友とようやく再会したというのに、何もできないまま彼は再び姿を消してしまった。
ダメージの残る体で起き上がるも自らの無力さに項垂れるモーアンに、仲間たちもかける言葉が見つからない。
と、そんな時だった。
「……ん?」
地面についたままのモーアンの手に、どこからか流れてきた紙切れがかさりと当たる。
くしゃくしゃのそれは一見するとただのゴミのようだが、妙に気になった彼は紙切れを拾い、開いてみた。
「これは……」
「どうしましたか?」
「ノクス……何か伝えたいことがあるみたいだったけど、やっぱりね」
どういうことだろうかとエイミとミューが顔を見合わせる。
「さっき、いくつか気になる仕草をしてたんだ。彼なりの合図だったんだろうね。それに、これ」
「……『ごめん。今は何も聞かないでくれ』……これ、もしかしてノクスさんの?」
「もしかしたら彼は正気のままなのかも。こうやってこっそり伝えてきたことといい、何か事情がありそうだ」
黒いモヤに取り込まれ、我を失っているのだと思っていた親友ノクス。
シュヴィナーレの地下神殿で遭遇した“禁呪の魔法士”が助手にしたと言っていたが……
「うん。今はひとまず置いといて、神殿へ向かおう。ノクスも神殿の方から来たし、あっちで何かあったかもしれない」
『大神官のおじさんが心配ね……!』
落ち込んでいる暇も、考えている余裕もない。
エイミたちはかつてあたたかく迎えてくれた大神官ルーメンの顔を思い浮かべながら、神殿へと急ぐのだった。
「強くなったじゃねえか、モーアン」
デコボコになった石畳をひとつひとつ踏む靴の音。ぱちぱちと乾いたまばらな拍手。それよりも、己の名を呼ぶ聞き覚えのある声……
弾かれたように振り向くと、そこにはモーアンと同じ神官服の青年がいた。
金茶の短い髪、モーアンよりややしっかりめの体格と、猫のような鋭さをもった菫色の眼。
「ノクス……」
震える声で、彼の名を呼ぶ。それはある日突然豹変し、モーアンの前から姿を消してしまった同僚で幼馴染の名だと、仲間たちも聞かされていたものだった。
「あの人がノクスさん……?」
『なんかヤな感じするわね……あんま迂闊に近寄らないほうがいいわよ』
竜の肌がざわつく違和感をおぼえ、威嚇するミュー。ノクスの周囲には、黒いモヤがじわりと染み出すように漂っている。
「なぁ、モーアン。神殿にいないと思ったら、ルクシアルを出て旅してたんだってな?」
「……君が“追いかけてくるな”と言ったからさ。世界中を回ったけど、まさか再会の場所がここになるとはね」
「はははっ! そうだったな……お前は、昔からそういう奴だった」
「君もね……ノクス」
再会を懐かしむ友人同士の親しげなやりとりに見えるが、互いに杖を握る手を緩めない。
しばしの睨み合いの後、ノクスがぱちんと片目を閉じた。
「……!」
「名残惜しいがそろそろお別れの時間だ」
言いながら右足で二回、地面を叩く。するとノクスの周囲を螺旋状にぐるりと黒い光が舞い遊ぶ。
「ノクス!」
「禁呪の魔法士ケイオスの次の狙いは“災禍”だ。まあ、お前らにできることはたかが知れてるがな!」
ノクスは手にした杖の先端を地面に思いっきり突き立て、己を中心に四方八方へと強力な衝撃波を飛ばした。
「ううっ!」
「きゃあぁ!」
突然のことに反応が間に合わず、体勢を崩されたモーアンたちはなすすべもなく吹き飛ばされ、地に伏した。
一行が顔を上げた時には、既にノクスの姿はなく、荒れ果てて見る影もない“輝ける都”の光景だけが残されていた。
「くっ……」
「モーアンさん……」
行方不明だった親友とようやく再会したというのに、何もできないまま彼は再び姿を消してしまった。
ダメージの残る体で起き上がるも自らの無力さに項垂れるモーアンに、仲間たちもかける言葉が見つからない。
と、そんな時だった。
「……ん?」
地面についたままのモーアンの手に、どこからか流れてきた紙切れがかさりと当たる。
くしゃくしゃのそれは一見するとただのゴミのようだが、妙に気になった彼は紙切れを拾い、開いてみた。
「これは……」
「どうしましたか?」
「ノクス……何か伝えたいことがあるみたいだったけど、やっぱりね」
どういうことだろうかとエイミとミューが顔を見合わせる。
「さっき、いくつか気になる仕草をしてたんだ。彼なりの合図だったんだろうね。それに、これ」
「……『ごめん。今は何も聞かないでくれ』……これ、もしかしてノクスさんの?」
「もしかしたら彼は正気のままなのかも。こうやってこっそり伝えてきたことといい、何か事情がありそうだ」
黒いモヤに取り込まれ、我を失っているのだと思っていた親友ノクス。
シュヴィナーレの地下神殿で遭遇した“禁呪の魔法士”が助手にしたと言っていたが……
「うん。今はひとまず置いといて、神殿へ向かおう。ノクスも神殿の方から来たし、あっちで何かあったかもしれない」
『大神官のおじさんが心配ね……!』
落ち込んでいる暇も、考えている余裕もない。
エイミたちはかつてあたたかく迎えてくれた大神官ルーメンの顔を思い浮かべながら、神殿へと急ぐのだった。
