3:星見の丘を越えて

 フォンドが加わってからは特に苦戦することなく、星見の丘を抜けることができた。
 再び街道に入って少し行けば村があり、ちょうど空も暗くなり始める。

「話に聞いていたより早くここまで来られましたね」
「サクサク進んだからなぁ」

 どこから襲ってくるかわからない魔物たちに対して、対処できる人数が増えたのは大きい。おまけにお互いに自分にはない力を持っていて補い合えるのだから、同行して正解だっただろう。
 負担が半分になり体力を温存できたぶん、ふたりの足も軽く、予想より到着が早まった。

「このままルクシアルまで行っちまいたいけど、洞窟越えるのが厳しそうだな」
「わたしたちは村でしっかり準備して明日早くに出発しようと思っています。フォンドはどうしますか?」

 最初の話では、道に迷ったフォンドが丘を抜けるまでということだった。
 意気投合しているが、出会ってからまだ日が浅い。急いでいるなら、彼を引き止める理由はないだろう。

「うーん……オレもちゃんと準備して、出発は明日かな。協力するって言ったし、エイミたちが嫌じゃなけりゃ、ルクシアルまでは一緒でも……」
「そうですね。あなたがいてくれたら心強いです」
「んじゃ、決まりだな」

 お互いに、心からの素直な言葉と笑顔。まだ踏み込めない部分はあるが、共に戦った仲だ。ここまでの道中で信頼が芽生え始めていた。

『一応言っとくけど、宿は別々だからね!』
「わかってるよ。明日の朝まで自由行動でいいだろ?」
「それぞれ準備がありますもんね」

 それじゃあ、と軽く別れて、エイミとフォンドは真っ先に武器屋へと向かう。
 互いに顔を見合わせ、一拍の間を置いて。

『ちょっと、マネしないでよぉ』
「まず武器防具見に行くだろ。自分の命を預ける大事なもんだ」
「わかります……!」

 フォンドの言葉に、エイミが目を輝かせて頷いた。

「旅の中では資金が限られています。最初に武具を揃えて、余ったお金でやりくりを考えるんですよね!」
「そうそう!」

 呆気にとられるミューをよそに、ふたりは武器防具を見て回る。
 武器の品揃えは港町と変わりませんね、とか、でも防具はいいの置いてあるぞ、などと盛り上がりながら。

『これ、微笑ましいわねって笑うトコかしら……?』

 気が合うのは良いことだが、脳筋が揃うとこうなるのか。
 若い男女が揃って、距離感も近いのに、全く色気がない。
 フォンドが信用できそうな男で、警戒の必要がなさそうなのは良いことなのだが、それはそれでなんだか複雑な心境になりながら防具のお買い上げを眺めるミュー。

『……エイミ。少し外の風にあたってくるわね』
「え?」
『大丈夫。危険な場所には行かないわ。夜には戻るから』

 そう。自分には、やらなければいけないことがある。
 己に静かに言い聞かせたミューは、ふたりを残し、その場をそっと離れるのだった。
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